忘 れられない人」詳細レポ


■■ はじめにおことわり ■■


以下は、私が記憶をたよりに書き起こしたものです。
そのため、正確に舞台を再現しているものではありません。
動作については、見えたことを書いているつもりですが、他の人がみたら違って見えるかもしれません。
セリフについても、言い回しが違っていたり、足りないセリフも多々あると思います。
使われている音楽についても、友人と一緒に調べたものなので、本当に正しいかどうかはわかりません。
特定できなかった音楽については「不明」とかヴォーカルが女性か男性か程度しか書いていない場合もあります。
それらの点について、ご了承の上、お読みください。

著作権上、何か、問題がありましたら、こちらまで ご連絡をお願いします。
抵触するようでしたらすみやかに削除いたします。


■ 映画「Untamed Hear」 ー忘れられない人ー ■

【スタッフ】
  監督: トニー・ビル  製作:ヘレン・バートレット、トニー・ビル  製作総指揮:J・ボイス・ハーマンJr.
  脚本:トム・シエルチオ  撮影:ヨスト・ヴァカーノ  音楽:クリフ・エデルマン

【キャスト】
  クリスチャン・スレーター(アダム)、マリサ・トメイ(キャロライン)、ロージー・ペレス(シンディ)、
  クローディア・ウィルキンス(マザー・カミーラ)他



■ 舞台 「忘れられない人」 − Untamed Heart − 

【スタッフ】
    翻訳・脚色:高平哲郎 演出:宮田慶子 美術:松井るみ 照明:中川隆一 衣装:半田悦子
 
【キャスト】
相葉雅紀(アダム)、加藤夏希(キャロライン)、岩佐真悠子(シンディ)、
原金太郎(ビルA)、五十嵐明(ビルB)、加藤啓(ハワード/ジュリオ)、
西慶子(マリー)、吉成浩一(パッツィ/ロニ−)、小野賢章(マイケル)、
綾田俊樹(ガス)、 田島令子(マザーカミーラ)

【公演】
 東京公演 東京グローブ座  2007.10.22〜11.11
 大阪公演 シアターBARAVA!  2007.11.16〜11.18


【美術】
回り舞台を3つに区切り、そのうち一つがアダムの部屋またはキャロラインの家のポーチ、残り2つはダイナーのホールとキッチン。ホールとキッチンの間には カウンター。回り舞台は階段2段分、高くなっていて、舞台の一番手前は低いまま。

回り舞台をダイナーとして使うときは、上手側がホール、下手側がキッチン。シーンによって、どちらを客席正面にするかを変えるが、どちらの状態でも、ホー ルもキッチンも見える状態。ホールの上手奥にはレジ、そちらが店の出入り口。手前にイスとテーブルが2組。正面奥の壁側にはジュークボックスとタバコの自 動販売機。中央のカウンターを挟み、キッチンのカウンター側には手前にコンロ、奥の方に流し。そのまま正面奥に控え室とのドア。キッチン奥の壁、一番下手 に皿洗い器、右隣に冷蔵庫。舞台一番下手には、このダイナーの勝手口のドアがあり、舞台から見えるのはドアの外の屋外。ドアのさらに下手にゴミバケツや段 ボール。

アダムの部屋は、奥の角、上手側の壁にドア、上手側の壁、手前に本棚があり、たくさんの本が並んでいる。玄関のすぐ脇に小さな流し、本棚と流しの間に冷蔵 庫。下手側壁にそってベッド。ベッドの枕元には布のかかった四角いもの。ベッドの隣に小さなイスとテーブル。本棚の前には1人用のソファ、左側に電気スタ ンド。ベッドの脇の壁、高いところに窓がある。


●プロローグ●
 「Nature Boy」(Kurt Elling)が流 れ始める。途中で暗転。


●シーン1  アダムの部屋 キャロラインとマザー・カミーラ

明るくなるとそこは、きちんと整理されている部屋。鍵をあける音。キャロラインが鍵をあける。
キャロラインの衣装は白っぽいフード付きのロングコートに赤っぽいマフラー、ウェスタンブーツ。赤いミトンの手袋を持っている。
その後ろからゆっくりと入ってくるマザーカミーラ。ゆっくりと部屋の中をみまわす。

 カミーラ      「あなたが、お掃除をしてくださったの?」
 キャロライン    「違うんです。アダムはきれい好きなんです」

頷くマザーカミーラ。

 キャロライン    「お茶でも入れましょうか?」
 カミーラ      「けっこうよ。すぐにおいとましますから。」

マザー・カミーラは本棚の絵本を手にとってみている。
キャロライン、冷蔵庫に手をかけて、アダムを思い出し、ほほえんでから

 キャロライン    「アイスクリームでも食べます?」
 カミーラ      「(びっくりしてふりむいて)何もいりません・・・ありがとう。」

涙ぐんでいるいるキャロライン。

 キャロライン    「(ソファをすすめながら)そちらにおかけください」

衣装をきれいにさばいてそのイスに座るシスター。

 カミーラ      「アダムとは、いろんなお話をなさったんでしょ?」
 キャロライン    「すべてを話したような気もするし、まだ何も話していないような気もします。」
 カミーラ      「アダムの心臓のことは?」
 キャロライン    「ヒヒの・・・心臓」
 カミーラ      「まあ。あの子はあなたにそのお話をしたのね。」
 キャロライン  「はい。マザー・カミーラに話してもらたって。
                         心臓に重い病気があったんですよね。
            アダムの話は、あなたか、あなたから聞いたことばかりでした。
            ご両親の話もマザー・カミーラから聞いたって。」

 カミーラ      「そうですか。」

うつむくマザー・カミーラ。ゆっくりと頷く。しばらくたってからキャロラインを見て頷く。

 カミーラ    「あの子が修道院の孤児院に来たのは2つの時でした。
                        雪の降る寒い日でした。
                        抱きしめたときの体の冷たさを、今でも忘れる事ができません。
                        シスターたちは、みんな、あの子をかわいがりました。
                        アダムは重い心臓の病気で、ずっと病室生活でした。
                        1階の陽の当たる病室で、外ばかり見ていました。
                        ちょっと目を離すといつも苦しそうにしていました。
                        あの子は何度も死にかけました。私たちはよくあの子を励ましました。
                        『アダム、あきらめちゃだめよ』『ぼうや、あきらめないで。』。
                        かわいそうなアダムの心臓。私たちはお祈りばかりしていました。
                        それしか、やるべきことがわからなかったのね。」

マザー・カミーラ、テーブルの上にあるプレゼントの包みを見る。

 カミーラ        「それは?あなたからの贈り物?お誕生日の?」
 キャロライン 「いいえ、私へのプレゼントですって。自分のお誕生日 に。」
 カミーラ   「まあ、中身は?」
 キャロライン 「あけてないんです。あとで一緒にあけようって。
                        それが こんなことに。」


涙ぐむキャロライン。
 
 キャロライン     「そういえば、マザー・カミーラ、アダムにレコードをあげましたよね。それをかけると雨がやむの」
 カミーラ           「そんなことが・・・あったような気もするわ」
 キャロライン      「待ってください。今、かけますから。」

立ってベッドの枕元に行き、四角い箱の布をはがすキャロライン。そこにあるのはプレーヤー。プレーヤー近くの床でレコードをさがすキャロライン。

 キャロライン     「あら、ないわ。どこにいったのかしら?」

 カミーラ       「おつきあいは、どれくらい?」
 キャロライン     「1ヶ月くらいです。
                            彼を意識したのは、去年のクリスマスの直前でした。
                            彼がダイナーに来て1年以上は経っていました。
                            彼がグラスで手を切って、それを私が手当てしたんです。
                            クリスマスが終わってからは、毎日のように会っていました。」

楽しそうに話すキャロライン。

 カミーラ       「そういえば、去年の暮れ、あなたとアダムが働いているダイナーに行ったんですよ。
                            近くまでいったので。お店はお休みでしたが、ガスさんと、お客さんの2人のビルさんがいました。」
 キャロライン     「そうだったんですか。(ほほえみながら)みんな、いい人でしょ。」
 カミーラ       「ええ。ねえ、キャロライン?
             私は、アダムが大人になって孤児院を出てから、
                            特に、自分で働き口をみつけてからのことはあまり知らないの。                           
                            心臓の病気のせいで、せっかくみつけた働き口も半年以上はもたなかったわ。
                            それが、ガスさんのお店では・・・。
                            キャロライン、彼のことを話してくださる?」
 キャロライン        「ええ。(興奮気味に)覚えていることを全部お話しします。」
 カミーラ            「ああ、ドキドキするわ」
 キャロライン        「それまでは、彼の事を無口な変人だと思っていました。」

舞台下手、ダイナーの勝手口が開き、アダムが出てくる。白のコックコートに白い長いエプロン、茶色いズボン。ゴミの缶にゴミをいれ、持ってきた段ボール に、外にあった箱からじゃがいもを一個ずつ入れていく。動作が緩慢で丁寧。下手のアダムにスポットが当たったままアダムの部屋が暗転。

 キャロライン        「私と話すまでは、彼がしゃべるのを聞いたこともありませんでした。」
 カミーラ             「ひどい人見知りでしたからね。」                          

   キャロライン        「ほんと言うと、彼がどういう人か興味もありませんでした。
                             ああいう人だとは全然知らなかったし。」

黙々と働くアダム。「Nature Boy」(Anna Luna)が 歌の始まりのアカペラから流れる。
アダムがいる場所意外は暗転。


●シーン2 ダイナー ●

「Nature Boy」がフェイドアウトして、それにかぶるように「Please Mr Postman」(カーペンターズ)が流れ、明るくなる。場所はダイナーのホールがわ。「Please MrPostman」は、奥にあるジュークボックスから流れている。

ホールには中年男性の客が2人(2人ともビリーという名前)、テーブルでコーヒーを飲んでいる。ピンクの制服のウェイトレス・シンディが働いている。そこ へ、控え室の方から、制服の上にコートをきた別のウェイトレス・マリーが出てくる。

 マリー                「私、もう帰っていいってさ!」
 シンディ            「誰がそう言ったの?」
 マリー                「キャロラインが戻ってくるって。今、制服に着替えてるわ。」
 シンディ            「キャロラインはデートじゃなかったの?」
 マリー                「デートが中止になったんですって。キャロラインは捨てられたのよ。」
 ビルA                「なあ、シンディ。教えてくれよ。女の子の呼び方なんだけど、
                            20年代はあんよちゃん、30年代は子鹿ちゃん、
                            トマトちゃんってのもあった。50年代は俺のスケ。
                            なあ、シンディ、21世紀は女の子のこと、なんて呼ぶんだ?」
 シンディ         「(仕事をしながら)知らないわよ!私に聞いてもダメよ。
                             それより、今日は雪が降るんですって。」
 ビルB             「雪?」
 ビルA             「なあ、シンディ、21世紀には女の子のことをなんて呼ぶんだい?」
 シンディ            「知らないわよ!!
                            いつの時代も、美人は美人、ブスはブスよ!!」

この頃、箱にじゃがいもを入れ終わったアダムが中に入ってくる。
奥から出てくるガス。帰り支度をしているマリーを見て、

 ガス           「え、もう帰るのか?」
 マリー          「キャロラインが戻ってきたのよ」
 ガス           「キャロラインは、マジソンスクエアガーデンにアイスホッケーを観にいったんじゃなかったのか?」
 シンディ         「今、あっちで着替えてるわ」
 ガス           「なんだよ。俺に断りもなくローテーションを変えるなよ。」

アダム、ゆっくり歩いてカウンターのところに行き、カウンターの下にじゃがいもの箱を入れる。

そこへ戻って来たキャロラインが控え室の方からホールに出てくる。アダムのすぐ近くを通るキャロライン。
キャロラインを見るアダム。

カウンターにはマリーが座っている。
キャロライン、すごい勢いで歩いて来て、カウンターの椅子に座る。体は客席をむいている。

 シンディ      「いったい、どうしたのよ?」
 キャロライン    「スティーブンったら、『別れよう、俺たちは、別の友達とつき合うべきだ』、ですって!!」

両手を広げるキャロライン。

 マリー                「なんで?少なくともあなたに理由は言うべきよね!」
 キャロライン       「知らないわよ。(テーブルの方に移動して)とにかく、もう、この話はしたくないの!」
 マリー               「スティーブンって?」
 シンディ            「(カウンターにすわって)ママが病気の子よ」
 キャロライン       「(カウンターにいるマリーたちの方をむいて)スティーブのママは元気よ!
                            (マリー達に背中をむけて)少なくとも私を捨てたときまではね!」
 マリー                「 じゃあ、庭にイチジクの木がある子?」
 シンディ          「それはボブよ」
 キャロライン        「違うわ!!庭にイチジクの木があるのはジャッキーよ!!」
 マリー           「ジャッキーか・・」
 キャロライン     「(マリーとシンディの方を向いて)いい?もう、この話はしたくないの!!わかった?!
            (二人に背中を向けて)今の私に必要なのは、酔いつぶれるまで飲む事よ・・」
 シンディ          「キャロライン、まさか、電話しようなんて思ってないでしょね?」
 キャロライン        「だめ〜?」
 シンディ          「ダメよ,絶対!!いい?スティーブンはあなたをすてたのよ!!」
 キャロライン        「・・・・」
 シンディ          「きっと彼は1週間後には戻って来ていうわよ。『ごめん、僕が悪かったって』」
 キャロライン        「男ってそうなのよ!」
 マリー           「キャロライン、あなたは人がよすぎで男を見る目がなさすぎるのよ。
                            もっと地に足をつけないとダメなのよ。
                            純粋すぎて、自分の体の上を男達がとおりすぎていくのを黙ってみるだけなんて」

3人がおしゃべりしている間、カウンターの奥のキッチンでは、アダムがずっと皿をふいている。ガスがアダムの近くで、3人のおしゃべりぶりを嘆くジェス チャーをしている。二人のビルは3人のおしゃべりに圧倒されている。

話が一段落したところで、ガスがキッチンにある鍋のふたとお玉でガンガンガンと音を出す。

 ガス                「はい、休憩時間終わり。さあ、仕事に戻って」
 マリー            「ガンガン、叩かないでよ。うるさいわね。あたしたちはボクサーじゃないのよ!」

とボクサーの素振り。

 ガス                「私が生まれたギリシャのクレタ島の女達は・・・」
 マリー               「ハイハイ、ハイハイ」
 ガス                「とにかく、もっと労働したまえ、労働を。な?」

アダムに声をかけ控え室にいくガス。

 シンディ          「まったく、あったまくるわ!あの男。家も家族もないし、働くしか脳がないのよ。
                            四六時中、ここにいるし。きっと、屋根裏に巣があるのよ!!」

テーブルに座っているキャロライン。
音楽がいつのまにか「Yesterday once more」に なっている。

 シンディ         「 (キャロラインに)今日、何時まで?」
 キャロライン    「12時にあがるわ。」
 シンディ      「まさか、この寒空に歩いて帰るんじゃないでしょうね?」
 マリー          「夜中に一人で出歩いちゃだめよ。変なヤツがうろうろしてるから。」
 キャロライン    「弟を迎えによこすわ」
 
控え室にもどっていくキャロライン。目で見送るアダム。

 シンディ            「 (キャロラインの後ろ姿に)いい?キャロライン。
                    スティーブンはあなたを捨てたのよ!彼に電話しちゃだめよ!!」

ぷりぷりしながら控え室に帰って行くシンディ。アダムの側をとおるときに、腕に布巾をかけていく。

 マリー          「それじゃ、私は帰るわ。」
 ビリーたち        「俺たちもそろそろ帰るよ」
 マリー          「途中まで一緒に帰りましょ」
 ビリー          「ああ、そこで待ってる」

 レジでビリー達の会計をするマリー。

 マリー          「アダム!!アダム、テーブルかたづけて!!」

帰るマリー。一人残されるアダム。
キッチンからホールにいって、ビルたちがいたテーブルの椅子を場所をなおし、テーブルの上の椅子とカップをカウンターに運ぶ。

<暗転 「ピアノマン」(ビリー・ジョエル)


●シーン 3   ダイナー 

「ピアノマン」がかかったまま、明るくなると、セットが少しまわって いて、客席からはキッチンとホールが同等に見える。

長いエプロンを外し、ホールの床をモップでふいているアダム。
キッチンでは、電話をかけるキャロライン。電話には誰もでないらしい。
電話から離れたキャロラインを見るアダム。
キャロラインも一瞬アダムを見るが、すぐに裏口から制服のまま外に出る。
キャロラインを目で追うアダム。掃除を続ける。椅子をどかし、丁寧に掃除をする。 
下手側で車の音がして、車にむかって手を振るキャロライン。

 キャロライン「マイケル!ここよ!」

車で迎えにきた弟のマイケルが下手そでから出てくる。

 キャロライン「遅いわよ。」
 マイケル  「ごめん、ごめん。」
 キャロライン「あんたのデートに協力してるのよ。なんで私が待たされな きゃなら ないのよ。」

マイケルを中に誘う。ホールの中ではアダムがずっと掃除をしている。
入って来たキャロラインを見るアダム。

マイケルはキッチンで待っていて、キャロラインは控え室に着替えに行く。

 キャロライン「(控え室から声だけ)あんたのかわいい彼女はどこに住ん でるの?」
 マイケル  「クランフォード」
 キャロライン「(すぐに控え室から出て来て)クランフォードですっ て!!」

キャロラインの方を遠くから見るアダム。

 キャロライン「あのね、マイケル!私は明日11時から仕事なのよ!!」
 マイケル  「大丈夫だよ。映画は1時だから、その前に家の前でおとす よ。
        それとも、一緒に映画にいく?
        もちろん、僕たちとは別の席だけど」

にやにやするマイケル。

 キャロライン「けっこうよ!!」

控え室にもどっるキャロライン。

 キャロライン「(控え室から声だけ)あんたの彼女ってどんな子?」
 マイケル  「(櫛で髪をとかしながら)先週会ったろ、あの子。」
 キャロライン「かわいいじゃない?」
 マイケル  「もしかして、軽い子だと思ってるんでしょう」
 キャロラン 「どうして?バストが大きいから?」
 マイケル  「そんなんじゃないよ。お姉ちゃんこそ、あの子に兄貴がい ないか気にしてるんでしょう?
       (お玉を持って、そこに自分の顔を映しながら)
        そういえば、美容学校には行ってるの?美容学校に行って る割りには・・・」
 キャロライン「私が綺麗になってどうするのよ。美容学校は、美容師にな るための学校よ。」
 マイケル     「じゃあ、料理教室はどうしたの?フラワーアレンジメント教室は?」
 キャロライン「知らないわ」

控え室から出てくるキャロライン。赤いロングのダッフルコート。茶色いブーツ。
キャロラインの方を見るアダム。

 キャロライン「さ、いくわよ」

マイケルを促して帰るキャロライン。裏口のドアを出る二人。
ホールからキッチンに移動するアダム。キッチンの掃除を始める。

 マイケル  「ねえ、聞きたいんだけど、映画館で僕、何すればいい?
        おねえちゃんなら、自分の胸を触らせたい?」
 キャロライン「彼女いくつ?」
 マイケル  「同じ学年。16歳」
 キャロライン「つきあってどれくらい?」
 マイケル  「9日目」
 キャロライン「(マイケルの肩をだいて)いくのよ!当たってくだけろ よ!」
 マイケル  「うん」
 キャロライン「でも、いきなりはダメよ。殴られるから」
 マイケル  「ありがとう、おねえちゃん!!」

車の音。外(下手側)の方をみているアダム。
車のクラクションの音やパトカーの音が遠くから聞こえる。

<暗転  ずっと流れていた「ピアノマン」が大きくなる>


●シーン4−a  ダイナー

ホールには二人のビルとシンディとマリー。忙しそうな雰囲気。
「When Will I See You Again」(The Three Degrees)がかかっている。
ガスはカウンターに、アダムはキッチンの流しのところで皿洗いの用意をしている。

 マリー        「ふう、やっと帰った」
 シンディ     「アダム!テーブルかたづけて!」
 ガス       「アダム、皿をあらってくれ」
 マリー      「(声をあらげて)アダム!!テーブルかたづけて!!」

アダムの後ろを、控え室から出て来たキャロラインが通ってホールにいく。

 ガス       「しょうがないなあ。アダム、皿洗うの後にしてテーブルかたづけるの、手伝ってやってくれ。」

シンディとマリーは忙しそうに動き回りながら、ホールの手前の方に来ようとしているビルたちとぶつかったりしている。
ぶつかりながら、二人のビルは手前の方へ。

 ビルB   「そうだ、キャロライン、今年もレンジャーズの試合はここ から始ま るな?」
 キャロライン「そうなのよ。今年のスタンレーカップ、待っててね。」

キャロライン、ビルBと話した後、ホールの手前の方のテーブルをかたづける。

 ビルA   「なあ、キャロラインのボーイフレンドは、ホッケー選手 だったのか?」
 ビルB   「そんなことないだろ。お前が女子プロレスのファンだだか らって、
                お前の逃げた女房は女子プロレスの選手だったか?」
 ビルA      「それはそうだけど、ホッケー選手の恋人は、絶対にファンの女の子だ」
 ビルB      「なるほど、それはたしかにそうだ」

キャロラインの方をみる二人。
キッチンからホールの方にいくアダム。
キャロラインはそに来たアダムに下げた皿をわたす。
その時、キャロラインをみるアダム。
受け取った皿を持ってキッチンにもどるアダム。
それと同時に舞台が少し回り、キッチンが正面になる。
キャロラインも下げたコップを持って、キッチンのほうにやってくる。


●シーン4−b ダイナーのキッチン  ●

音楽は前のシーンと同じ曲がそのまま。

アダムが皿洗い機にカゴをセットしようとして、うまくセットできず、ガシャンと音がする。手を切ってしまったアダム。
自分の手をみて呆然としている。たまたまキッチンの流しにコップを置きにきたキャロラインが気がつく。

 キャロライン「まあ、自分で切っちゃったの?
                      あら、かなり深いわ。縫わなきゃならないかも。」

アダムの手に布巾を握らせるキャロライン。

 キャロライン「こうして握っていて。」

自分の手首を握ってみせるキャロライン。

 キャロライン「包帯、あったかしら。」

救急箱をさがす。アダムをみると、手首も握らずに呆然としている。

 キャロライン「アダム!!握って!!そうしないと出血死、してしまう わ」

キャロライン、アダムの左手を持って、アダムの右手首を握らせ、包帯を探し、棚の上の救急箱を見つける。

 キャロライン「あったわ。さ、傷を洗いましょう」

キャロライン、アダムを流しにひっぱっていって、水道で傷を洗う。

 キャロライン「ちょと冷たいわよ。きゃあ、いたい〜?」

アダムはずっと無言でキャロラインの顔をみつめている。
傷を洗うと、キャロラインは、消毒薬をガーゼか脱脂綿につける。

 キャロライン「たぶん、出血はじきに止まるわ。
        もし止まらなかったら、ガスに、セントビンセント病院に つれていってもらって。」
 アダム   「(キャロラインをみつめている)・・・・」
 キャロライン「あなた、まさか、病院はこわ〜い、っていうんじゃないで しょうね」
 アダム   「(キャロラインをみつめたまま)・・・・」

キャロライン、アダムの傷を消毒する。

 キャロライン「・・・あなたの両手のマメ・・・
                        あなた、クリスマスツリーのバイトしてるでしょ?」
 アダム   「(自分の両手を見つめ)・・・・」
 キャロライン「先週、ツリーを運んでいるのをみかけたわ」
 アダム   「(キャロラインと顔を合わせず横をみている)・・・・」

アダムの体に顔をちかづけて臭いをかぐ。

 キャロライン「クリスマスツリーの臭いがする」
 アダム   「(キャロラインをみつめたまま)・・・・」
 キャロライン「あなたって、クリスマスツリーみたい。頭にお星様をつけ たら?」
 アダム   「(キャロラインをひたすらみつめている)・・・・」

あまりに無反応なアダムに困惑するキャロライン。

 キャロライン「冗談よ!」

アダムの右手に包帯を巻きながら

 キャロライン「私、クリスマスツリーの臭いが大好きだったのよ。
        なんの悩みもなかった子どもの頃のことを思い出すわ。
        今じゃ、みんなまがい物。うちじゃ、プラスチックのツ リーを飾ってるわ。
                      見た目も違うし、臭いも全然しないわ。」


包帯を巻き終わるキャロライン。

 キャロライン「さ、できたわ。」
 アダム   「(キャロラインをみつめたまま)・・・・」
 キャロライン「ほんとにしゃべらないのね。」

救急箱をもとの位置にもどしながら

 キャロライン「安心して。私に話しかけて、なんて頼まないから。」

キャロラインをみているアダム。

 キャロライン「じゃ, 仕事にもどるわ」


キャロラインの包帯を巻いてもらった手を胸にあてているアダム。


●シーン4−c ダイナー ●

キャロラインがホールに行こうとする頃、ホールが騒がしくなっている。
一目でガラの悪い客、ハワードとパッツィーが来店し、タバコの自動販売機をたたいて騒いでいる。

 ハワード  「(その様子をおっかなびっくりみているビルに)何、見て るんだよ、ジジイ!」
 パッツィー 「何、みてるんだよ!!」

舞台が少し回って、ホール側が正面に。
自販機をたたきつづけるハワード。
キャロラインを呼ぶシンディ。

 シンディ  「私たちの自動販売機よね!!」

二人の方に近寄って行くキャロライン。
アダムはカウンターで、客席に背中を向けてグラスを拭いている。
アダムのそばでハワードたちの様子を見ているガス。
ハワードの顔が「ムンクの叫び」みたいだというジェスチャーをしている。
シンディとマリーもキッチンから遠巻きに様子を見ている。

 キャロライン「何、してるのよ」
 ハワード  「こいつが、俺の25セントをくっちまったんだ。ねえちゃ んよ!」
 キャロライン「私の自動販売機を叩くのはやめて!」
 ハワード  「ここはあんたの店か?」
 キャロライン「違うわ。でもこの自動販売機は私のなの。
        他のウェイトレスとお金を出し合って買ったのよ。全額支 払えばいい投資になると思って。」

レジから鍵を持ってきて自販機をあけるキャロライン。

 キャロライン「どのタバコがほしいの?」
 ハワード  「マルボロだ」

キャロライン、自販機からマルボロを出してハワードにわたす。

 ハワード  「(それを受け取らず)マルボロ・ライトだ」

むっとして、マルボロライトを出すキャロライン。

 キャロライン「ほらっ」

ハワードに手渡す。

 パッツィ  「はーっはっはっはっは」
 キャロライン「こんどから、この自動販売機に何かあったら、私に言っ て」

鍵をレジに戻しにいくキャロライン。キャロラインを追うハワード。

 ハワード     「ごきげんいかが?キャロライン」
 キャロライン「(名前を知っていた事に驚きつつ)ええ、いいわ。」

ハワードがキャロラインの名前を知っていたのに驚いて、2人の方をみるアダム。
足早にキッチンに戻るキャロライン。
テーブルにつくハワードとパッツィ。

 ハワード      「あの女、どう思う?」
 パッツィ      「うるせえ女だなあ。知ってんのか?」
 ハワード      「まあ、見てろ」

マリーが注文をとりにいく。

 マリー   「ご注文は?」
 ハワード  「俺たちは、キャロラインに注文をとりにきてほしいんだ」
 パッツィ  「ひゃーっはっはっはっはっ」
 ハワード  「あんたたち二人にもチップはやるからさ」

チップを出すハワード。キッチンに戻るマリー。

 マリー        「キャロライン、交代して」
 キャロライン「まあ、素敵だこと!」

キッチンではウェイトレスたちがなにやら話している。
ハワードとパッツィはジュークボックスのところにいって、「呪われた夜」 (イーグルス)を かける。
アダムは、コップを拭くのをやめ、カウンターにおいてあったメニューを手にとって、レジのところに持っていく。
レジのところから、ジュークボックスの前にいる2人をにらむアダム。
ハワードがそれに気づく。

 ハワード  「(アダムをにらみつけながら、ガラ悪く)何、みてんだ よっ。なんか、文句あるのか!!」

視線をそらし、ゆっくりと歩いてカウンターの中に戻るアダム。
歩いている間、その顔には怒りが少し表れている。
戻ったアダムは、客席に背中を向けた状態で、ナイフやフォークをふき始める。
キッチンで話し込むキャロラインとシンディ。

 シンディ  「何かあったらすぐに呼んでね」

2人のところに注文をとりにいくキャロライン。

 キャロライン「ご注文は?」
 ハワード  「最近、パーティーにいかなかったか?」
 キャロライン「・・・・」
 ハワード  「俺はあんたを知ってる。7月4日、独立記念日のパー ティー。たしか、地下だった。
                       スロー・ジン・フィズ・・・」
 キャロライン「(どこであったか思い出したらしいが)
                        ああ、スロー・ジン・フィズね。
        (わざと強気に)あれ、どうやって作るのかしら?」
 ハワード     「蒸し暑い夜だったなあ。」

2人が執拗に近づいてくるので、ホールの中を歩いて上手のほうにいくキャロライン。
追ってくる二人。

 ハワード  「あんた、ゲーゲー吐いてた。」
 キャロライン「・・ああ、あのときね。今、思い出したわ。二人とも、記 憶力がいいのね」
 ハワード  「どういたしまして。あの男とは今でもつきあってるの か?」
 キャロライン「いいえ。ご心配ありがとう。彼は今、警官してるって話 よ!!」

強気に振る舞っているが、つきまとわれて実は困っているキャロライン。

 ハワード  「俺たちはそんなに悪いヤツじゃないぜ、キャロライン」
 キャロライン「(怒りをこめて自動販売機を指差し)
                        私たちの自動販売機をたたいたりしなければね!!」
 ハワード      「はーっはははは。俺はハワード、こいつはパッツィ。」
 キャロライン「ハーイ、ハワード。ハーイ、パッツィ」

無理矢理笑顔をつくって明るく挨拶するキャロライン。
仕事をしながら、3人の方をみるアダム。

 キャロライン「(気を取り直して)ご注文は?」
 ハワード  「俺はミディアムレアのチーズバーガーデラックス」
 パッツィ  「俺もおなじものを〜」
 ハワード  「(パッツィを指さして)こいつは字が読めねえんだ」

2人、いやらしく笑う。

キッチンに戻ろうとするキャロラインを追うように二人がつきまとう。キャロラインはカ
ウンターのそばに。

 ハワード  「今、つきあってるヤツはいるのか?」
 キャロライン「ええ、私にはボーイフレンドがいるわ」

ハワード、キャロラインの左側に立って、キャロラインの肩に肘をかける。

 ハワード  「安心しな。そいつは、あんたを、俺と2人でシェアしてく れるぜ。
        へっへっへっへっへへ。」
 パッツィ  「ひゃーっははははは」

アダム、客席に背中を向けたまま、顔だけ3人の方を見る。

 キャロライン「それは無理ね。彼はあなた達とは違ってお育ちが良くない の」

キャロライン、言い放つとキッチンに戻り、控え室に入って行く。

 パッツィ  「(キャロラインの真似をして)あなた達と違って、お育ち がよくないの、だって」

シンディがパッツィに近づいて鍋のふたを叩く。

「呪われた夜」の音が大きくなって暗転。


●シーン4−d ダイナー  ●

「Killing Me Softly with His Song (やさしく歌って)」(ロバータ・フラック)が流れる中、ダイナーはややキッチンよりの位置が正面。
キッチンには、ガスとアダム。アダムはホールとキッチン床を掃除している。
シンディが控え室から出て来て、奥の控え室にむかって大声で話をしている。

 シンディ  「イタリア人って情熱的っていうより、いやらしいわ。
        2人は赤信号で出会ったんですって。」

控え室の中のキャロラインは無反応。

 シンディ     「キャロライン、彼に電話してないでしょうね。」
 キャロライン「(控え室の奥から声だけ)してないわ」
 シンディ  「絶対、しちゃだめよ。」

シンディが喋りつづけるのを呆れてみているガス。    
シンディ、ホールの方にいって、テーブルを片付けながら、

 シンディ  「まったく、あったまくるわ。
                      さっきここにいた客、チップをおかないでいっちゃったのよ!!」
 ガス    「昔、わがクレタ島の近くに、くちさけの島という島があり ました。
        その島の女たちは、あまりに無駄口ばかりたたくので、口 が大きく裂けていました。
        (シンディを指さし)避けてたろうね。こんなでっかいピ ザも丸ごと食べられる。」

言いながら、控え室に戻っていくガス。
シンディはカウンターのところに戻って、控え室のガスに向かって叫ぶ。

 シンディ  「あのねえ、あんたはね、私の水着の中に残った濡れた砂み たいなもんなのよ!!
        ほんとにイライラさせるのよ!!」

乱暴にカウンターを出るとそこにはアダムが掃除をしている。

 シンディ  「(アダムに向かって)このうすのろ!!」

着替えたキャロラインが控え室から出てくる。

 シンディ  「今日、お迎えは弟?」
 キャロライン「ううん。今日は歩いて帰る。じゃあね」
 シンディ  「じゃあ、気をつけてね。」
 キャロライン「おやすみ」

控え室にいくシンディ。
アダムの方に近づいてくるキャロライン。上手側をむいて掃除をしているアダムの後ろから声をかける。
 
 キャロライン「傷は大丈夫?」

アダム、振り向いて、キャロラインが包帯を巻いた自分の右手を顔の前に持って来て、キャロラインを見る。

 キャロライン「じゃあ、お大事にね」

裏口に向かうキャロライン。急いで掃除を終わろうとするアダム。

 ガス    「アダム!ちょっとこっちきて、プレーヤーみてくれない か?
        90回転くらいになっちゃって、キャロル・キングがピー チク、パーチク言ってるんだ。」

アダム、キャロラインが帰った方向とガスを交互に見て、迷っている様子。

 ガス    「頼むよ」

キャロラインが気になりながらも、ガスに頼まれた仕事をしに控え室の方にいくアダム。


<暗転 「やさしく歌って」のサビが流れる>


●シーン5 公園  ●

BGMはなし。
ダイナーのセットの前に煉瓦の壁がおりてくる。そこは公園。
キャロラインが1人で下手から歩いてくる。
車のエンジン音とクラクションの音。車のライトがキャロラインに当たる。

下手から走ってきたハワードがキャロラインの上手側、すぐ近くに立つ。

 キャロライン「きゃあ!」
 ハワード    「どうも!」

驚くキャロライン。

 キャロライン「なんてこと、私を脅かして。こんな時間に誰にだって会い たくないわ。」

さらに、後ろからキャロラインに近づくパッツィに気づいて叫ぶ。怯えているがそれを表には出さない。

 キャロライン「こんな時間に何の用?」
 ハワード     「テーブルはあいてるか?」
 キャロライン「何の事?」
 ハワード    「スロー・ジン・フィズ」
 キャロライン「スロー・ジン・フィズ?」
 ハワード    「俺が作ってやるよ」
 キャロライン「(逃げながら)朝の4時に大の男が何してるの?寒くない の?」
 パッツィ    「俺があたためてやるよ」
 キャロライン「けっこうよ。あなたたち、朝の4時に、いったい何をして いるの?」
 パッツイ  「ブラブラしてる〜。俺たち、このエリザベスの街じゅうの 家から追い出されちゃったんだ」
 ハワード  「俺たちのこと、そんなに怖がらないでほしいなあ」
 キャロライン「そうじゃないわ。疲れてるのよ」
 パッツィ  「俺たちと、一杯やらないか?」

紙袋に入った酒瓶をみせるパッツィ。

 キャロライン「いい?私は一晩中働いて疲れてるのよ。」

キャロラインを両側から挟むように立つハワードとパッツィ。
2人、お互いの肩に手をかけ、キャロラインを挟み込む。

 ハワード  「なあ、キャロライン。セックスは好きだろ?」
 キャロライン「・・・・・」

2人の腕をすり抜けて逃げるキャロライン。

 キャロライン「どいて。家に帰りたいの!!」
 ハワード  「俺たちが一緒に歩いてやるよ」
 キャロライン「けっこうよ!」
 パッツィ  「あんたみたいなきれいな女が一人で歩いているのは危ない ぜ」

上手の方に逃げるキャロライン。追う2人。上手の端に、センター側を向いてたつキャロライン。その前にハワード。
キャロラインの後ろ、足下にはパッツィがコートの下からのぞき込むようにしゃがんでいる。

「呪われた夜」が再び流れる。

 ハワード  「一番いいのは、お互いに好きなことをしてやるよ。」
 キャロライン「・・・(後ろのパッツィに気づいて)地獄に堕ちな!」

右足のかかとを後ろに蹴り上げ、パッツィを撃退。
逃げるキャロラインをハワードが羽交い締めにするが、強烈な肘鉄をいれてハワードもひっくりかえる。

 キャロライン「いい?休戦ね」

2人のすきをついて上手端に逃げようとするキャロライン。3人、もみあいになる。

 キャロライン「誰か!!たすけて!!」

キャロラインは、急所を蹴ったり、かみついたり、かなりがんばって戦うが、しょせん、女の子1人と男2人なので、最後には、コートを脱がされ、階段に頭を ぶつけられて気を失う。
気を失ったキャロラインにまたがるハワード。

そこへ、下手から男が1人、足早に歩いてきて、まずは、ハワードに左足で強烈な蹴りを入れる。
そのままハワードの顔を何度も殴ったり、蹴ったり。ハワードがぐったりしたところで、キャロラインに近寄ったパッツィ舞台の中央まで引きずり、何度も蹴 る。最後は、腕をねじ上げて、足で踏みつける。

キャロラインのそばに行き、かぶっていたグレーのパーカーのフードをとると、それはアダム。
着ていた茶色のコートを脱いで、倒れているキャロラインにかける。
そのまま、キャロラインの腕を自分の首にかけ、キャロラインを抱き上げようとする。

<暗転 「呪われた夜」が大きくなる>


●シーン6 キャロラインの家のポーチ  ●

明るくなるとそこはキャロラインの家のポーチ。アダムのコートをかけられたキャロラインがそこに横たわっている。アダムが運んできてポーチに寝かせたとこ ろ。アダムはドアを開けようとしてみるがドアはあかないので、キャロラインにかかっているコートを、丁寧に腕のほうまであげる。アダムは少し息が切れてい る。

自分は、ちょっと離れた階段のやや上手よりに座る。キャロラインが包帯を巻いてくれた右手を見る。寒さにふるえ、パーカーの前のファスナーを上まで上げて 震えている。

キャロラインが目を覚ます。アダムが視界に入り、状況が理解できず悲鳴をあげる。
振り向くアダム。立ち上がる。

 キャロライン「あなた・・・」

アダム、後ずさりしながら、首を横にふって否定する。

自分にかかっているコートや、目の前になぜアダムがいるのか理解できないキャロライン。
その場を上手側に立ち去るアダム。
呆然とするキャロライン。

<暗転 「Nature Boy」( 小林桂) 歌の出だし部分>


●シーン7 ダイナー  ●

ホール側がメインに見える。
BGMは「Ooh-Wakka-Doo-Wakka-Day」 (Gilbert O'Sullivan)
ホールで、テーブルのナプキンを足しているシンディ。
カウンターには二人のビル。キッチンにはガス。カウンターの内側にはマリー。
 
 ビルA「なあ、ビル。」
 ビルB「なんだい?」
 ビルA「昨日のアイスホッケーの試合みたか?」
 ビルB「見てない。昨日はお前とこのカウンターにいただろ」
 ビルA「一昨日の試合はみたか?」
 ビルB「一昨日もみてない」
 ビルA「なあ、ガス。どうしてここにはテレビないんだ?」
 ガス 「おたくらみたいな客を長居させないためさ。」

 ビルA「なあ、シンディ。キャロラインはどうしたんだ?」
 シンディ「お休みよ。」
 ビルA「またデートかい?」
 シンディ「病欠よ。電話があったわ。」
 ガス 「でも、もう1週間になるな。だいじょうぶなのか、シンディ?」
 シンディ「知らないわよ。」

すでにきれはじめているシンディ。

 ビルB 「かなり悪いのかなあ」
 ビルA 「なまけ病だと思うな」
 ガス  「キャロラインはそんな子じゃない!」
 ビルA 「じゃあ、なんで休んでるんだ?」
 シンディ「知らないわよ!!きっとインフルエンザよ!!
              わたしに聞かないでちょうだい」

上手の端からモップを持って入って来て、レジの近くにバケツをおくアダム。

 シンディ「(ふりむいたらアダムがいたので)なんでそんなとこにいるの よ!このウスノロ!!」
      なんで私がキャロラインの休んだ理由をいわなきゃならないの よ!!
     (ホールをずかずか歩いてキッチンの方にいきながら)
              おかげで丸一週間、休んでないのよ!!
      なんで休んでるのか、キャロラインに聞けばいいでしょ!!」

ぶち切れて、ヒステリーを起こし、控え室に入って行く。乱暴にドアを締める音。
シンディの剣幕にみんなびっくり。

 ビルA 「ウスノロっていってもなあ。」
 ビルB 「働き者は働き者なんだけどなあ。」
 ビルA 「アダムって言ったっけ?」
 ビルB 「ああ、アダムだ。」
 ビルA 「一言もしゃべらないってのもなぁ。いるんだかいないんだかわ からない。でもいるんだあいつは。」
 ガス  「アダムはよくやってくれている。あいつの悪口はいうな!」
 ビルB 「悪口なんて言うつもりはないよ」
 ガス  「とにかくアダムはよくやってる。あいつはいいヤツだ。
              あいつのことについては詮索しないでくれ。」
 ビルA 「どうしたガス?ムキになって。」
 マリー 「(カウンターに出て来て、二人のビルにそっと言う)
              あの子、胸に大きな傷があるのよ。」
 ビルA 「(ニヤニヤしながら)裸にしたのか?」
 マリー 「バーカ!私が控え室に入ったときに、たまたま着替えてたのが 見えたのよ。
              (身をのりだすように二人に)
              彼の体の中には猿の内蔵が入ってるんですって!!」

上手端で掃除をしながら、ちょっと苦しそうにしているアダム。

 ガス  「マリー!!」
 マリー 「なによ!あんたが言ったんじゃない!!」
 ビルA 「あいつをここに推薦したのは猿か?」
 ガス  「修道院のマザー・カミーラだ」
 マリー 「私は会ったわ。綺麗な人。若い頃はさぞかし美人だっただろ うって話になったのよね。」

アダム、胸に手を当てている。ちょっと苦しそうだが仕事を続ける。

 ビルA 「どうしてそんないい女が修道女なんだ?」
 ビルB 「神様だって、いい女を側におきたいさ」
 マリー 「どうして私はほうっておかれるのかしら?」
 ビルA 「それは、お前がブサ・・・」

ビルB、ビルAの口を慌ててふさぐ。

 マリー 「なんて言った?」
 ビルB 「神様の好みの問題さ」

とりつくろうビルB。

 マリー 「ブサって言ったわね、ブサって」
 ビルB 「言ってない,言ってない」
 マリー 「(怒って)ブサってどういうことよ!!」

<暗転>BGM「Ooh-Wakka-Doo-Wakka-Day」の 音が大きくなる。


●シーン8−a ダイナー  ●

BGM違う曲に。曲名は不明。軽い感じの女性ヴォーカル。
舞台は少し回っていて、ホールとキッチンの間くらいが正面。
ダイナーのホール、舞台奥の方(店の入り口近く)では、ビルたちが話をしている。
アダムはホールの手前の方でテーブルをかたづけている。

大きめの紙袋を胸にかかえたキャロラインとマイケルがキッチンの奥からくる。
キャロラインは、ベージュ系のコートと赤っぽいマフラー。

 マイケル    「何時に迎えにくればいい?」
 キャロライン「4時」
 マイケル    「え〜4時!!僕、明日、学校だから7時におきなきゃいけないのに。
               4時なんて無理だよ。」

アダムがキャロラインたちに気がついて遠くからキャロラインを見ている。少し微笑む。(←千秋楽だけかも)

 キャロライン「4時よ!!マイケル!!来なかったら殺すわよ!!い い??」
 マイケル    「え〜〜」

控え室に入って行くキャロライン。

 マイケル    「殺すって・・・。う〜、さみ〜〜。」

下手そで、車の方に向かって走っていくマイケル。

テーブルの上の食器をさげて、キッチンの方に来るアダム。
食器を流しにおいて、キャロラインのいる控え室の方を少し見ている。
そして、下手の見えない方に行くアダム。
瓶のケースを持って戻ってくる。

制服に着替えたキャロラインが控え室から出てくる。手に持っているアダムのコートを、控え室のドア近くの棚にあるフックにかける。

ビンのケースを持って歩いているアダム。ケースをカウンターの入り口におき、カウンターの奥に入っていく。
アダムの後ろ姿に、声をかけようとするキャロライン。
ホールにいたガスがキャロラインに気づいて声をかける。

 ガス         「やあ、キャロライン!!もう大丈夫なのか?」
 キャロライン「お休みしちゃってごめんなさいね。もう、大丈夫よ。」

キャロラインの声にびくっとするアダムの後ろ姿。
ホールの方に行くキャロライン。キャロラインを見送るアダム。
キャロラインはレジの方に歩いていく。
アダムは、カウンターの入り口にしゃがんでビンをふき始める。

 ビルA        「キャロライン!!出てきたのか!
               どうせなら昨日から出てくるべきだったな。昨日は大騒ぎだったんだ。」

キャロライン、レジから自動販売機の鍵をもってきて、自動販売機をあける。

 キャロライン「そう。それは残念だったわ」
 ビルA        「ボビーって知ってるだろ?」
 キャロライン「ボビー?」
 ビルA        「ロスアンジェルスから来たやつさ」
 キャロライン「バイクに乗ってる人?」
 ビルA        「そう。でも、もう、やつはバイクに乗れないんだ。
                昨日、死んだリスで滑って、事故っちまって、 バイクがおしゃかになっちまったんだ。
                        だから、ヤツは昨日、ヤケになってここで飲んで、酔っぱらって店の外を走り回って大変だったんだ。」

キャロラインは自動販売機から離れて、ホールの手前の方に来ている。
その間にガスが出てきて、カウンターの中に入ろうとしたので、カウンターの入り口にいたアダムは、ガスが通れるように立ち上がる。
立ち上がったアダムとキャロラインの目が合う。

 キャロライン「(アダムの方を向いて)ごめんなさい。私、全然気がつか なくて。」
 ビルA     「(キャロラインが自分と話をしていると勘違いして)いいってことよ。ボビーのことは。」

ちぐはぐな会話に気づいてビルAの方を見るキャロライン。キャロラインを見つめるアダム。しゃがんで仕事に戻る。

 ビルA     「そういえば、キャロライン。先週、ここで自動販売機を叩いてた2人組がいたろ。
         (ハワードの真似をしながら)マールボロライトだ、ってやつ」
 キャロライン「(ちょっと動揺して)ええ?」
 ビルA         「あの2人の内の1人を、ガスがセントビンセント病院で見たそうだ」
 キャロライン「(ガスにむかって)どういうこと?」
 ガス         「(カウンターの中で)従姉のルーシーが手首を痛めてね。
                        手術しなけりゃならなくて入院してるんだ。
                        先週、見舞いにいったんだけど、そしたら、ヤツが大部屋にいたんだ。
                        あのムンクの叫びみたいな顔したやつ。ヤツ、顎を針金でぐるぐるにまいて、
                        食べ物をストローでチュウチュウやってた。」
 ビルやマリー 「へえ・・」

あの時に何があったのかを理解して、アダムを見るキャロライン。

 ガス         「あれは、相当な事故だな。
               ダンプかトレーラーとぶつかったに違いないね。」

瓶を拭き終わったアダムは、ケースを持ってキッチンに戻る。後を追うようにキッチンに行くキャロライン。舞台が少し回り、キッチンの方が正面になる。ホー ルの奥の方では、ビルたちが話している。

 ビルB        「最近、ダンプやトレーラー、増えたよな。この街にはいらないよな。うるさいし、危ないし。」
 ビルA        「この前、路肩で鹿がひき殺されてたよ。」
 ビルB        「しか?」
 ビルA        「まあ、しかたないか」


●シーン8−b ダイナーのキッチン  ●
 ・BGMは前のシーンから同じ曲

アダムは瓶のケースをキッチンの真ん中にある台の下に入れるためにしゃがんでいる。
そこにキャロラインが来て、アダムの前(下手側)に膝をつく。立ち膝になるアダム。
(つまり、キャロラインよりアダムの顔の方が高い)

    キャロライン「どうして私が住んでるところを知っていたの?」

アダム、動揺したのか、正座のような姿勢になり、キャロラインを見上げるアダム。

 キャロライン「(アダムの手の包帯に気づいて、その手をとって)まあ、私がまいた包帯、まだしていたの?」
 アダム   「(手をとられるまま、キャロラインを見つめ る)・・・・」
 キャロライン「(アダムの手を離して)あなたって、ほんとは強いんじゃ ないの?」

アダムは言われたくなかったのか、横を向いてしまう。下手を向いているので、客席側に顔を伏せる。

 キャロライン「(真ん中にある台の奥を回って、流し台の方に歩きなが ら)
                        あんな怖いことは生まれて初めて!!思い出すと、今でも胃が飛び出しそうよ。
                        (思い出してまた恐怖に震えながら、流し台の前あたりの位置、つまりアダムの後ろの方で)
                        女の子にとっちゃ、最低のことなのよ。でしょ。」

キャロラインの方を振り向くように見るアダム。

 キャロライン    「あの、私・・・・・・ほんとうにありがとう。」

しゃがんでいるアダムのそばに行き、後ろからアダムの左頬(つまり客席から見える側)にキスをする。
すぐに立ち上がって離れるキャロライン。驚いてキャロラインを見るアダム。

アダム、立ち上がって、カウンターの近くにいるキャロラインの後ろ姿にむかって唐突にいう。

 アダム            「君を、つけた。」

喋り方がたどたどしい。驚いて振り向くキャロライン。

 キャロライン    「私をつけた?」
 アダム           「僕は・・」
 キャロライン    「なに?」
 アダム           「話はまだ終わってない」
 キャロライン    「ごめんなさい。」
 アダム          「君が、一人で歩いていると、心配で。安全かどうか。 だから、毎日、君をつけた。」
 キャロライン    「 ・・・・・」
 アダム           「ごめんなさい。あの日、僕は遅れた。」
 キャロライン    「どういうこと?」

キャロラインに近づくアダム。

 アダム       「話はまだ終わってない。
                   あの日、僕は、かなり遅れた。
                         ごめん。僕がもっと早く行っていれば・・・」

毎日、助けてくれたアダムが、毎日、自分の後をつけていた事にショックを受けているキャロライン。

 キャロライン    「ちっとも知らなかったわ。・・・・ごめんなさい、私、動揺しているみたい。」

ホールにいたビルたちが立ち上がる。

 ビルA       「(キャロラインに向かって)じゃあ、帰るよ」

キャロライン、ホールの方に行く。

 キャロライン    「(出口に向かうビルたちにむかって)おやすみなさい。」
 ビルたち      「ああ、おやすみ」
 キャロライン    「(アダムの方をむいて)この話はまた後でね、アダム。
                            あなたのコート、持って来たわ。どうもありがとう。」

キャロライン、控え室の入り口近くにかけたコートを指差し、すぐにアダムに背中を向ける。
キャロラインに包帯を巻いてもらった手を胸にあてて、キャロラインを見ている。

「Alone again」(ギルバート・オサリヴァン)の イントロがかかる。暗転。
暗転中、そのまま「Alone again」がかかっている。


●シーン8−c ダイナー  ●

明るくなると、ホールの方が正面になっている。BGMはそのまま「Alone again」
キャロラインとシンディが、ホールでテーブルの備品の準備をしている。

 シンディ      「今日、入り口のあたりに、ウェイトレスに色目を使う客がいたの!!!
                          まったくいやらしいったら。」

ちょっとぼーっとして、砂糖のビンにポットから砂糖を足す作業をしているキャロライン。それに気づくシンディ。

 シンディ      「やっと仕事復帰ができたみたいね。」
 キャロライン    「ん?」
 シンディ           「ねえ、どうしたの?歯でも痛い?

                          それとも、子どもの頃やったおねしょのことでも思い出した?」
 キャロライン    「そんなんじゃないわ。」

カウンターの方にいくキャロラインとシンディ。

 キャロライン    「ねえ、アダムのこと、どう思う?」
 シンディ      「(作業をしながら)アダム?どうしたの?彼となんかあった?」
 キャロライン    「先週、彼がグラスて手を切って、私が手当したの。 彼はそれをずっと見ていた。」
                          彼は、いったい何を考えていたのかしら?」
 シンディ      「何も考えてないわよ。アダムは変人よ。ここに来てから一 度もしゃべってないのよ。」
 キャロライン 「(思いついたように)アダムは内気なのよ。」
 シンディ         「いい、アダムは変人よ!
だいたい、何、あの髪型!!」

さっきいたテーブルの方に戻りながら、アダムの髪型を手で真似るシンディ。

 キャロライン    「さんざんな言われようね。
 シンディ      「みんなが彼の事をなんて言ってるか知ってる?」
 キャロライン    「・・・」
 シンディ      「彼の体の中には、猿かなんかの内蔵が入ってるんですって!!」
 キャロライン    「それはただのお話だわ」
 シンディ      「だって、マリーがそういってたもの」
 キャロライン    「それは作り話よ。 知ってるでしょ、マリーはしゃべり好きだもの」
 シンディ      「どうしたのよ?彼となんかあったの?」
 キャロライン    「なんでもないわ」

シンディはテーブルで、キャロラインはカウンターでビンに砂糖を入れてながらしゃべっている。

 シンディ      「それより、クリスマスはどうするの?
                        (カウンターの方に移動して)
                            誰だって、クリスマスこそ決めてやる。そう思ってる。それが人生よ。」
 キャロライン    「クリスマスはいつも同じよ。
                           祖父と祖母が来て、封筒に入った20ドルをくれるわ。
                          『おまえのボーイフレンドはどこにいるんだ?』って。
                          そして、プラスチックのツリーを見て、みんなで食事をして、テレビを見て、レコードを聴いて、眠る。
                          みんな、その日、初めておろしたパジャマを着てね。」
 シンディ      「(テーブルに戻って)うちに来ればいいのに。うちは毎年、ばか騒ぎよ。
                            うちのパパはいつも言ってるわ。
                            『キャロラインは来ないのか?キャロラインは俺が嫌いなのか?』って。
                            ね、うちに来れば?」
 キャロライン    「ええ、そうねぇ」
 シンディ      「(キャロラインの真似をして)『ええ、そうねえ』。
            あのね、キャロライン。あなたはいつもそう。
            あなたが学ばなければならないのは、最後までやりとげることよ!!!
                          始めた事は終えきゃならない。」
 キャロライン 「終えきゃならない?」
 シンディ      「ええ、そうよ。そういえば、美容学校にはまだ行ってるの?」
 キャロライン    「(ちょっと動揺して)ええ、行ってるわ。2週間後には実技の試験もあるのよ。」

カウンターのキャロラインの方に近づいて行くシンディ。

 シンディ      「出会ってから今まで、あなたのことなら何でも知ってるわ。
            最初はマジックショーのアシスタント、それから自分のブライダルショップを持つまで。」
 キャロライン    「ハーイ、ママ。ありがとう。」

この頃、音楽が「Clair」(ギルバート・オサリヴァン)に 変わる。

 シンディ      「いい?あなたが学ばなければならないのは最後までやりとげること!!
            (テーブルの上にある中身のない砂糖のビンを持って来て)
            ほーら、あなたはこれも最後まで終わってない」
 キャロライン    「(低い声で)はーい、ボス!」

シンディはキッチンの方に行く。

アダムが茶色の紙袋を持って入り口から入ってくる。レジに行くアダム。
キャロライン、アダムに気がつく。

 キャロライン「(アダムにむかって)ハーイ!」

アダム、紙袋をレジのところに置いて、とまどいながら、右手を小さく上げる。
キャロラインに背を向けて、ポケットから小銭を出して手の上で数えている。
たぶん、店の買い物にいって、おつりをレジに戻すつもり。

キャロラインはアダムに近づく口実として、砂糖のビンに気づき、
その砂糖のビンをもって、アダムの近くのテーブルに持ってくる。

 キャロライン「お客はいつだって、砂糖のビンがいっぱいかどうかで、 チップの額を決めるのよ」

アダム、自分に話しかけられている事に動揺しながら小銭を数えている。

 キャロライン「(アダムに向かって)ねえ、アイスホッケーは好き?」

全身で振り向いて、キャロラインを見てから、小さく頷くアダム。

 キャロライン「試合に行ったことはある?」

ゆっくり小さく首を振って否定するアダム。

 キャロライン「こんど、試合を見に行こうね。」

キャロラインを見ているアダム。

 キャロライン「二人で・・・・。」

驚きながらも、間があって、小さく頷くアダム。
頷いたアダムを見て、嬉しそうに足早にカウンターの方にいくキャロライン。
レジに小銭を入れるアダム。それを遠くから嬉しそうに見ているキャロライン。
小銭を入れた後、キャロラインの方を見るアダム。
二人の目が合って、恥ずかしくなり、アダムに背中を向けるキャロライン。すごく嬉しそう。
キャロラインの後ろ姿を見続けるアダム。
キッチンの奥ではシンディが二人の様子をいぶかしげに見ている。

「Clair」の音量が大きくなる。暗転。


●シーン8−d ダイナーの外 ●

ホールの方は暗めの照明、ダイナーの裏口を出たところにキャロラインがいて、下手の袖のほうを見ている。

 キャロライン 「マイケルったら!!殺してやるわ!!」

4時に約束通り、迎えにこないマイケルに怒っている。
車のクラクションがなり、キャロラインに車のライトが当たり、すぐ側を車が通り過ぎた様子。
怯えて座り込むキャロライン。そこに、裏口からアダムが出てくる。
慌てて立ち上がるキャロライン。見つめ合う二人。

 キャロライン 「(座り込んだまま)おくってくれる?」

小さく頷くアダム。
そのまま舞台の一番前の位置を上手に向かって歩き出す。
おくるというより勝手に行く感じ。慌てて後をおうキャロライン。
上手端から1/4くらいの位置で突然立ち止まるアダム。
彼の背中にぶつかるように止まるキャロライン。

 キャロライン    「どうしたの?」
 アダム          「(そのままふりむかずに)ちょっと・・・いい?」
 キャロライン     「 なあに?」
 アダム          「(右側から、つまり客席側に顔を向けて振り向いて)
                         見せたい物があるんだ。」

<暗転>「Nature boy」(小林桂) ピアノイント ロのみ


●シーン9 アダムの部屋 ●

アダムの部屋。アダムがドアをあけて入ってくる。
ドアの左にある電気のスイッチをおし、電気をつけると部屋が明るくなる。
ドアはあけたまま、部屋の奥、ベッドの枕元の方を見てそちらに向かって行くアダム。
開いているドアからそっと伺うように部屋に入るキャロライン。ドアを閉める。
その間、ベッドの枕元にあるプレーヤーの下あたりをみているアダム。

 キャロライン    「ここに、住んでるの?」
 アダム          「うん。」

ゆっくりと返事をするアダム。

 アダム          「(キャロラインの方に体をむけて、ちょっとたどたどしい感じで)
                         でも、生まれてからずっと住んでるわけじゃない。本籍とかそういうのは別のところで・・・・」
 キャロライン    「ふふふ。アダム、気を悪くしないでね。
                            一人のときはいいかもしれないけど、あたなはやっぱりちょっと変わってるわ。」
 アダム          「(唐突に)アイスクリーム、食べる?」
 キャロライン     「(驚いて)アイスクリーム?!
                            アイスクリームを食べるには、外はちょっと寒すぎるし、時間も遅すぎるわ。
                            でも、ありがとう。」

アダムは、ソファの方に歩き、コートを脱いで、1人用ソファの背にそのコートをかける。
そのまま、冷蔵庫の上に鍵をおき、冷蔵庫をあけてアイスクリームをよそいはじめるアダム。

 キャロライン 「ここは、ご両親と一緒に住んでるの?」
 アダム      「(アイスクリームをよそいながら背中を向けたまま)
                       僕は孤児院で育ったんだ。ここは借りてる。」
 キャロライン 「(部屋をみまわして)綺麗好きなのね?」

アイスクリームをよそういながら振り向くアダム。

キャロラインは部屋を少し歩き、本棚に本がいっぱい入っているのをみつける。

 キャロライン    「すごいわ!この本、全部読んだの?」


アイスクリームをよそう手を止めて、キャロラインの方を向いて頷くアダム。

 アダム         「眠れないんだ・・・」

どうリアクションしていいかわからないキャロライン。

 キャロライン 「素敵ね、まさに自分の城って感じ。」

アイスクリームをよそったお皿をベッドの脇のテーブルにおき、プレーヤーの下においてある箱を手に取ろうとするアダム。
キャロラインが本棚の隣りにある小さなコルクボードに貼ってあるものを手に取る。

 キャロライン   「まあ、私の写真!!
                         あなた、カウンターの後ろの掲示板から盗んだのね。去年の大晦日のだわ。」

びっくりしてふりかえってキャロラインをみるアダム。

 キャロライン     「(アダムの方に近づきながら)ふふふ。私だけ見えるように折ってある。」

アダムに向かって、折ってある写真を蛇腹のように動かしてみせるキャロライン。
その写真には制服姿のキャロラインが真ん中に映っていて、そこだけが見えるように左右を折り畳んである。
キャロラインを見つめ、慌ててその写真をとりあげ、キャロラインを通り過ぎる。
キャロラインには背中をむけたまま、大事そうに両手で持つアダム。ちょっと気ま ずい。

 キャロライン 「私、もう帰らなくちゃ。もう遅いし。」

キャロラインの方を見るアダム。

 キャロライン 「私なら大丈夫よ。ありがとう。明日のクリスマスイブは どうするの?」

無言でキャロラインを見ているアダム。

 キャロライン 「(ちょっと動揺した感じで)でも、今年はまだ1週間以 上あるわ。
         じゃあね、またね。メリークリスマス」

右手を小さくふってドアを出て行くキャロライン。
持っていた写真を慌てて貼り、コートの袖を右側だけ通し,慌てて出て行くアダム。
アダムが部屋の電気を消すと暗転。
その前くらいから「The Christman song」(ナット・キング・コール)が流れ、暗転するとそれが大きくなる。


●シーン10 キャロラインの家の門の中  ●

「The Christman song」が流れ続け、舞台のメインの位置は暗転したまま、舞台上手端に郵便ポストと植木鉢に入った2mくらいのクリスマスツリー。てっぺ んに金色の星、 そのちょっと下には金色の大きなリボン。かざりは赤と金色の珠。

上手の袖の中から声だけ聞こえる。

 キャロライン     「マイケル、パパの新聞とってきて!!」
 マイケル          「後で。今、顔あらうところなんだから」
 キャロライン    「今、とってらっしゃい!!」

つまり、ここはキャロラインの家の門の中。
(アメリカの映画で見る感じだと、門のところにポストがあって、そこから玄関ポーチまでほんのちょっと庭がある、って感じでしょうか。)

上手の袖の中からマイケルが出てくる。

 マイケル          「さみ〜。(ポストに入った新聞をとりだしながら)まったく、人使いあらいんだから」

新聞をとって、家に戻ろうとして、クリスマスツリーに気づき、振り返る。驚いて新聞を落とす。

 マイケル          「え!!なんだこれ?夕べはなかったよな!おねえちゃん、出て来なよ!!」

マイケル、戻って、クリスマスツリーの下手側に立って、ツリーに触ってみる。

 マイケル          「本物のツリーだ。
                         (飾りに触ると飾りがとれてしまうので慌てる)。
                          いったい誰が持って来たんだ?おねえちゃん、おねえちゃん!!」

家に走って入って行くマイケル。
暗転。「The Christman song」が大きくな る。


●シーン11 アダムの部屋、外は雨 ●

明るくなるとそこはアダムの部屋。外は雨が降っている音がしている。
ソファに座って本を読んでいるアダム。左側にあるライトがついている。そこにノックの音。

 キャロライン 「(ドアの外から)アダム、こんにちは。」

もう一度ノックの音。

 キャロライン 「(ドアの外から)こんにちは、アダム。キャロライン よ。」
 アダム            「(本を閉じて) 鍵は、開いてるよ」

ドアをあけて傘を閉じて入ってくるキャロライン。

 キャロライン 「(入ってくるなりコートも脱がずに)
                         あなたが好きかと思ってクッキーを持って来たの。私が作ったのよ。」

四角い缶に入ったクッキーをアダムに渡す。受け取った缶の蓋をあけて、一つ食べてみるアダム。
あんまりおいしくなさそうな顔をしてクッキーを缶に戻す。
指をこすり合わせ、指についたクッキーのクズを缶の中に落とす。

 キャロライン 「まずい?もっとお砂糖、入れた方がよかったかしら」

困惑しているアダム。

 アダム      「アイスクリーム食べる?」
 キャロライン 「(ちょっと笑いながら)ほんとにアイスクリームが好き なのね。」
 アダム      「座ったら?」

アダムは、キャロラインに椅子を勧め、クッキーの缶を冷蔵庫の上において、本を本棚に戻しにいく。

 キャロライン 「ツリーのバイトは終わったんでしょ?」
 アダム      「(自分の手のひらのまめをみて)クリスマスが終わったからね。」
 キャロライン 「たくさん売れた?」
 アダム      「大きいのも小さいのもみんな29ドル99セント。
                     クリスマスの当日まで売れた。半値にしたんだ。
                     (本棚に本をきれいに入れながら)お客さんのルーフキャリアにのせると1ドルのチップをもらえる。
                     (ちょっとうれしそうに)それがなかなかバカにならない。」

本を戻すと、自分もソファに座るアダム。

 キャロライン 「昨日のクリスマスは一人ですごしたのね?
                       私、あなたを誘うべきだったわね。 ごめんなさいね、私、昨日まで休めなかったのよ。」
 アダム        「クリスマスはストロンボリさんと一緒だった」
 キャロライン 「ストロンボリさん?」
 アダム    「僕の雇い主はガスさんとストロンボリさん。
                        ストロンボリさんはショッピングモールでクリスマスツリーを売ってる人さ。」
 キャロライン 「まあ、そうだったの。」
 アダム        「(微笑みながら)ストロンボリさんは優しい人さ。僕が倒れたときも・・・」
 キャロライン 「倒れた?!」
 アダム        「(言ってしまってしまった、という表情をしながら)
                       ストロンボリさんは働きすぎだって言ってた。
                       前にもあったんだ、めまいがして、胸が苦しくなって息ができなくなったんだ。」
 キャロライン  「救急車?」
 アダム         「(首を横に振って)ううん、ストロンボリさんが、背中をさすってくれて、しばらくしたらなおった。」
 キャロライン 「病院には行ったの?」
 アダム         「(急に激しい口調で)病院は嫌いなんだ!!」

驚くキャロライン。

 キャロライン 「(立ち上がって下手の方にちょっといき)それよりあな た、クリスマスはうちに来たでしょ。」

立ち上がってキャロラインを見るアダム。

 キャロライン 「怒ってるんじゃないのよ。すばらしいクリスマスツリー だった。
                        ありがとう。覚えてくれていたのね。」

嬉しそうに照れるアダム。

 キャロライン 「(ベッドの足下の方に向かって歩きながら)
                         いったい、いつの間にうちの玄関で仕事をしたの?
                         私が眠っている間に、あなたが玄関で仕事をしていたと思うと、なんだかおもしろいわ。」

アダム、嬉しくて照れてしまい、キャロラインに背中を向けて電気スタンドのところに手をかけて嬉しそうにしている。
(つまり客席側を向いている)

 キャロライン 「私、悪いところに来た?帰って欲しい?」

慌ててキャロラインの方を向き、首を横に振るアダム。

 キャロライン 「じゃ、いるわ。」

嬉しそうにコートを脱いで、ベッドの足下にかけるキャロライン。

 アダム            「(キャロラインの顔は見ずに)ねえ、音楽は好き?キャロライン?」
 キャロライン 「ええ、音楽は大好き。
                         ・・・あなた、今、私の名前を初めて呼んだわね。
                         私の名前、知らないのかと思ってたわ。」
 アダム          「・・・・」
 キャロライン 「ええ、音楽は大好きよ。カーペンターズなんてかなりい いわ。」
 アダム            「・・僕のレコード、見てみる?」

頷くキャロライン。ベッドの枕元にあるプレーヤーの下にある箱をテーブルにのせるアダム。
かなり古い箱をあけると中には古いレコードが入っている。

 キャロライン 「ワオ!ずいぶん古いレコードね」
 アダム            「これは魔法だよ。」
 キャロライン 「まあ、どんな魔法を見せてくれるのかしら?」
 アダム            「孤児院でマザーカミーラがいつも聴かせてくれたんだ。
                         僕はベッドで太陽に当たりながら、いつも外を見ていた。
                         これを聴きながら、いつも僕は寝てしまった。
                         孤児院を出るときに、マザーカミーラがくれたんだ。
                         生きて行くのが辛くなった時、いつもこのレコードを聴くんだ。
                         これを聴くと、雨がやむ。」
 キャロライン    「まあ・・・」

箱から古いレコードをとりだし、大事そうにプレーヤーでかけるアダム。
古いレコードらしい雑音の入ったソプラノの歌が聞こえる。
チマーラの5つの叙情詩第1集より「郷愁」。(舞台で使われ ているのは川本愛子さんが歌っている)。
レコードをかけると自分のソファにゆっくりと座るアダム。

 キャロライン     「ねえ、この曲はオペラ?」

アダム、答えない。

 キャロライン     「ねえ、あなたの好きなこの曲はオペラ?」
 アダム                「(首を少し横にふって)この曲が好きなんだ。」

遠くを見つめるような表情のアダム。

 キャロライン     「あなたは、その、マザー・・・」
 アダム          「カミーラ」
 キャロライン     「マザーカミーラが本当に好きだったのね」
 アダム          「・・・・・
                         マザーカミーラは、僕の心臓の話をしてくれた人なんだ。
                         (急に立ち上がって話し始めるアダム)
                            僕は生まれたときから心臓がとても弱かったんだ。
                            僕の母は僕が生まれた時にアフリカで死んだ。
                            父は有名な冒険家だった。」
 キャロライン     「(小さな声で)まあ。」
 アダム          「(立ち上がって話すアダムにはライトが当たって神々しい。)
                            ある日、キリマンジェロの頂から、銀色のヒヒの大王が、
                            谷底の洞窟の財宝を盗んだ父を捕まえに降りて来た。
                            洞窟は、光り輝くマジックルビーで埋め尽くされていたんだ。
                            ヒヒ大王との壮絶な戦いの結果、父は重傷をおい、
                            その傷が元で死んでしまった。
                            でも、ヒヒ大王は後から知ったんだ。
                            父親は、重い心臓病の息子を助けるために、
                            光り輝くマジックルビーを必要としていた事を。」

ここらへんで曲が同じくチマーラの「雪が降る間」に変わる。

 アダム             「ひどい後悔の念にかられたヒヒ大王は、
                            自分の体から、ドクドクと脈打つ心臓をとりだし、
                            僕の心臓ととりかえた・・・」

話し終わるとソファに座るアダム。スポットライトも消える。息をつくアダム。少し涙ぐんでいる。
感動しているキャロライン。

 キャロライン     「すばらしいお話だわ、アダム。このお話を誰かにした?」

首を横にふるアダム。

 キャロライン     「なぜしないの?ほんとにすばらいいお話なのに。」

嬉しそうに微笑んでキャロラインをみるアダム。窓を見上げると陽がさしている。
キャロラインも窓を見ると陽がさして、雨の音もやんでいる。

 キャロライン     「(立ち上がって)まあ、雨がやんでる!!
                            一日中、雨だと思ってたのに。
                            魔法のレコードにヒヒの心臓。
                            アダム、私まで全部信じてしまいそうよ。」

嬉しそうに少し微笑んでキャロラインをみつめるアダム。幸せそうなキャロライン。

 キャロライン 「ねえ、髪をきらせてくれない?」

キャロラインをみあげるアダム。客席からはその表情は見えない。
 
暗転。チマーラの「雪が降る間」が大きな音で流れる。


●シーン12 ダイナーのホール  ●

ホールのやや下手側でガスが掃除をしている。入り口から二人のビルがのぞいている。
ビルBがこけて、二人が店の中に転がり込んでくる。
ダイナーが休みなのでジュークボックスはかかっていなくてBGMはなし。

 ガス           「本日休業」
 ビルA          「こいつが店の前でうろうろしてたんだ」
 ビルB          「俺はたまたま通りかかっただけだ。こいつこそ、店の前に立って中をのぞいてたんだ」
 ガス           「二人とも、他に行くとこないのか?」
 ビルA          「いつまで休みだ?」
 ガス           「今日が30日、31日、年があけて1日、2日からはあける」
 ビルA          「3日しか休まないのか?」

カウンターに座る二人のビル。

 ガス           「それ以上休むと、あんたらが行くところがなくて困るだろ。」
 ビルB          「俺はいいけど、こいつがな」
 ビルA          「俺はかわいこちゃんがいるから大丈夫さ」
 ビルB          「・・ああ、あれか」
 ガス           「かわいこちゃんて、まさか・・・」
 ビルB          「馬さ、馬。こいつは牧草地で競走馬を飼ってるんだ。」
 ビルA        「今は冬だから、牧草地じゃなくて、厩舎でおねんねだ」
 ガス           「へえ、あんた、競走馬のオーナーだったのか。」
 ビルA          「この話、もっと聴きたいか?」
 ガス           「よし、じゃあ、サービスだ。二人のために今年最後のコーヒーを入れよう。」
 ビルたち       「やった!ガス、サンキュー」
 ガス           「今、これ(バケツ)をかたづけてくるからな。ちょっと待っててくれ。」

奥にいくガス。
ビルは、二人とも上着を脱ぎ、ビルBはカウンターの上手端、ビルAはその場で隣りの椅子に上着を置く。ビルBは鼻歌を歌っている。
そこに、入り口からマザーカミーラが入ってくる。

 マザーカミーラ「すみません」
 ビルB          「(入り口に背中を向けていて、誰が来たのかみえないまま)本日休業。」

マザーカミーラの姿をみたビルAは立ち上がる。そのビルAを見てふりかえるビルB。

 マザーカミーラ   「すみません。アダムはいますか?」
 ビルA          「(ビルBに)アダムって?」
 ビルB          「あのしゃべらないアダムさ」
 ビルA          「(マザーカミーラに)アダムなら休みだ。2日から来ますよ。」
 マザーカミーラ  「あの、ガスさんは?」
 ビルA          「ガスなら、今奥にいるけど、すぐに来ますよ。」
 マザーカミーラ   「そうですか。お二人ともアダムをご存知?」
 ビルA               「ご存知もなにも、喋らないし・・・」
 ビルB               「おいっ」
 マザーカミーラ 「アダムはしゃべりませんか・・・」

奥からガスが出てくる。マザーカミーラに気づいて、マザーカミーラの方にくる。握手をする二人。

 ガス              「よく、いらしてくださいました。」
 マザーカミーラ    「まあ、ガスさん。アダムの就職をお願いして以来、ご挨拶にも伺わずにすみません。」
 ガス                  「
まあ、おかけください。」

閉店中なので、椅子はテーブルの上にかたずけられている。ビルBが慌てて椅子を二つだす。

 ビルB            「こちらにどうぞ」
 マザーカミーラ    「ありがとう」
 ガス              「これは、気がつかなくて・・・。
                           お手紙を何通かいただいたのに、お返事もだしていなくて。
                            失礼しているのは、こちらの方です。」
   ガス               「 (ビルBの方に手を出して)こちらがビル」
 ビルB          「どうも」
 ガス           「(ビルAの方を紹介し)こちらも、ビル」
 ビルA          「どうも」
 ガス           「こちら、修道院のマザーカミーラ。アダムの保護者だ。」
 ビルB          「ああ、孤児院の!」
 ビルA          「マリーが言った通りだ。若い頃はさぞかし美人だっただろうな。」
 ビルB          「ああ」
 ガス           「ビル!!」

カウンターの方をむく二人のビル。

 マザーカミーラ   「アダムはよくやってますか?」
 ガス           「ええ、よくやってくれていますよ。一日中」
 マザーカミーラ    「アダムがここにお世話になって、1年以上たちますかしら?」
 ガス           「先月でちょうど2年目に入りました。」
 マザーカミーラ    「まあ、じゃあ、あの子、今までで一番長くお勤めできたんだわ。
                         アダムは元気ですか?」
 ガス           「ええ、元気ですよ。」
 マザーカミーラ    「じゃあ、病院にも入らず1年以上も!!」
 ガス           「ええ」
 ビルB        「アダムは元気にやってるよ。」
 ビルA          「病院って、アダムはどっか悪いのか?」
 ガス           「(二人の方を見むいて、ちょっと戸惑った様子で、左胸に手をあてて)
                         ああ、ここがちょとな。」
 ビルB          「アダムは心臓が悪いのか。」
 ビルA          「だからアイソがないのか・・・」
 ビルB          「ビル!!」
 ビルA          「暗いのは持病のせいか・・・」
 ビルB          「暗いくらいのほうがいいんだ。こいつみたいに、明るすぎてうるさいよりも。」

奥にいってコーヒーをいれているガス。

 マザーカミーラ 「あの、アダムは明るくなっていませんか?」
 ビルB          「(ビルAをさし)いえ、こいつみたいにしゃべりすぎるより、ずっと信用できますよ。」
 マザーカミーラ    「(ガスに)アダムはご迷惑をおかけしていませんか?」
 ガス                  「アダムはよくやってくれてますよ。
                          迷惑をかけているとしたら、こいつら、客の方ですよ。」
 ビルB           「アダムはいいヤツです。」
 ビルA           「俺は、いいやつかどうか分かるほど話ちゃ...」
 ガスとビルB  「ビル!!」
 ビルB                「来年からは、こっちから話かけるようにしますよ。」
 マザーカミーラ    「(立ち上がって)アダムはいい方々にかこまれて幸せですわ。」
                              それじゃ、わたくしはそろそろおいとまします。」
 ガス         「(ホールの方に出て来て)今、コーヒーといれてますから」
  マザーカミーラ    「来年の春頃にでもまた伺います。
                   そうそう。(鞄の中から花柄の紙袋をとりだしながら)
                          これをアダムにわたしてくださいますか?
                          少し遅れたけど、クリスマスプレゼントですって。」

紙袋をあけると中には赤い手編みのミトンが。

 マザーカミーラ  「編み物なんてこの歳になって初めて。シスターヘレンに教わったんですよ。」
 ガス           「ほう。あなたの手編みですか。アダムが喜びますよ」
 マザーカミーラ  「それでは、神のご加護を。」

マザーカミーラのお祈りを受ける3人。マザーカミーラをおくりだす。

 ガス         「ビル!」
 二人のビル     「(同時に)うん?」
 ガス           「これからトムの店に飲みにいくか?一足早い、ハッピーニューイヤーだ。」
 二人のビル     「(二人とも椅子から飛び降りるように)ああ、いこういこう!!」

<暗転>「Nature Boy」(奥土居 美可??)歌の あたまから流れる。


●シーン13 キャロラインの家のポーチ  ●

明るくなると、そこはキャロラインの家のポーチ。明るい光がさしている。
ドアの前、やや下手側に椅子があり、斜め前を向いている。
前の階段にアダムが座っている。
家のドアをあけてキャロラインが出てくる。キャロラインは手に白っぽいバスタオルを持ち、腰には美容師が使うようなポケットがついた小さなエプロンをして いる。それには櫛やはさみが入っている。キャロラインは、白で襟ぐりの広いインナーの上に水色のシャツを羽織っている。

 キャロライン     「用意、できたわよ。さ、座って。」

玄関のドアのところにある椅子に座るようにアダムに促すキャロライン。
振り向くアダム。すぐには立ち上がらない。

 キャロライン     「(はさみをみせながら)大丈夫よ。」

家の中からマイケルが出て来る。

 マイケル          「 あ・・」
 キャロライン     「あんた、まだいたの?
                         (マイケルに)アダムよ。同じお店で働いてるの。」
                         (アダムに)弟のマイケルよ。」

階段を下りて、アダムのやや上手に立って手を出すマイケル。立ち上がっておずおずと手をだすアダム。

 マイケル          「(アダムと握手をしながら)マイケルです」

マイケルとの握手に戸惑っているアダム。握手をしたあとの自分の手を見ている。
そんなことは気にせずに出かけようとするマイケル。

 キャロライン      「今日もあの子とデート?」
 マイケル           「うん。明日のパーティーにも誘うつもりなんだ」
 キャロライン      「そうだわ。アダムも明日のパーティーに来るといいわ。ねえ。」

突然キャロラインに言われて戸惑うアダム。
マイケルは上手端の方に走って行く。

 キャロライン     「がんばってね!」

上手端で止まって、くるりと回ってラッパーのようなポーズを決めるマイケル。
その間、ずっと自分の手を見ているアダム。

 キャロライン 「さ、もう二人きりよ。座って。」

椅子に座るアダム。
アダムの肩に持って来たバスタオルをかけるキャロライン。
エプロンのポケットから櫛をだして、アダムの髪をとかしはじめる。
おとなしくされるままになっているアダム。

 キャロライン     「(アダムの髪をとかしながら)いったい誰がこんな風に髪を切ったの?」
 アダム                 「僕」
 キャロライン     「(ちょっと笑いながら)どうりで・・・」

キャロラインがアダムの耳右のちょっと上をとかすと、

 アダム          「痛っ(右耳の上に手を当てる)」
 キャロライン     「ごめんなさい。」

髪を切り始めるキャロライン。切った髪を下に床に捨てていく。ほんとに切っているように見える。

 キャロライン     「ねえ、一つきいていい?
                         あなたはずっと食堂の下働きで終わるつもり?
                         あなたは孤児院でちゃんとした教育を受けているに違いないわ。
                         本もいっぱい読んでるし。」

すぐには答えないアダム。アダムの前側に回って、ちょっと離れたところに立つキャロライン。

 キャロライン     「そうだわ。さっき言ったけど、
                           明日の大晦日にはうちでパーティーをやるつもりなの。
                           パパやママにも会えるし、
                           マイケルもガールフレンドをつれてくるし。 今日のデートでケンカしなければね。」

だまってキャロラインをみつめるアダム。

 キャロライン     「もし、迷惑なら、ボーイフレンドしてでなく、友達として でもいいわ。
                           誰も私たちの本当のことは知らないんだし・・・・。
                           私としては、ボーイフレンドとして来てほしいけど・・」

キャロラインをずっと見ていたアダム、少し微笑んで小さく頷く。

 キャロライン     「よかった!」

アダムの後ろに回って髪を切り始めるキャロライン。

 アダム          「(唐突に)へただったんだ。僕は。人付き合いが。
                            いつも一人だったんだ。」

 キャロライン   「1人なんていいじゃない?
                          欲しい物を独り占めできるわ。もっとも、そういう考えは私だけかもしれないけど。
                          アダム、あなたはそういう考え方はしないわよね。
                          あなたみたいな人は初めてよ。」
 アダム          「一番古い記憶は4歳のとき。」

しずかに自分のことをしゃべり始めるアダム。

 アダム      「僕の健康がまだ不安定だ理由で、人との接触が禁じられ、
                         ばい菌に感染するという理由で、外に出る事もできなかった。
                         それ以来、誰も僕には近寄らなかった。
                         僕はずっと一人だった。隔離されていたんだ。
                         大人になって、健康を回復してからでさえ、ずっと一人だった。
                         ・・・・・だから、僕は人付き合いがへたなんだ。」

アダムの頭を抱きしめるキャロライン。
キャロラインは何気なくやったことだが、そういう経験のないアダムは、目の前にあるキャロラインの腕を見て、その腕に手で触れている。
アダムの首に腕を回したまま、アダムの斜め前にいくキャロライン。

 キャロライン    「まあ、なんてことなの!
                          子どもには抱きしめてくれる人が必要なのよ。
                          しがみつく人が必要なのよ。」

アダムの子ども時代に同情するキャロラインだが、アダムはキャロラインの腕に動揺している様子。

 アダム          「お父さんの仕事は?」
 キャロライン     「パパ?パパは本当の父ではないんだけど、
                         (バスのハンドルを動かす動作をしながら)バスの運転手よ。
                         ニューヨーカーのジャージーバスに勤めてるわ。」

アダムの後ろに戻って、髪を切ることを再開するキャロライン。

 キャロライン     「とってもいいパパよ。私、本当の父よりも今のパパが好き。
                         パパったら、一回、テレビのどっきりカメラにあったのよ。
                         電話ボックスにとじこめられたの。
                         でも、あの人はりっぱにふるまったわ。」

髪を切るのをやめて、アダムの前の方に来てしゃべるキャロライン。

 キャロライン     「本当の父は、あの人は誰とでも水と油みたいな人なのよ。
                          絶対にまじらないの。愛情を示すなんてことはなかったわ。」

キャロライン、アダムのすぐ前に立ち、アダムの髪を前から触りながらしゃべる。

 キャロライン     「でも不思議ね。
                            あなたは、孤児院以外の人の愛情に触れた事がなかった・・・」

目の前のキャロラインを見上げるアダム。
ちょうど目の位置にキャロラインの胸があり、アダムの視線はその胸に移動する。
ちょっと座り直すアダム。手がだんだん上がって、キャロラインの胸に触りそうになる。

 キャロライン     「私は、父が愛情を示してくれなかったから、
                           いつも外に出て愛を探していた。」

アダムの手が胸に触りそうになっていることに気づいたキャロライン。
自分でアダムの手を胸に持っていく。
見つめ合う二人。アダムの額にキスするキャロライン。
アダムは突然、座ったままキャロラインの腰に抱いて泣き始める。
立ったままアダムを抱きしめるキャロライン。

 キャロライン     「まあ、アダム、泣いてるの?
                          大丈夫。大丈夫よアダム。大丈夫。大丈夫。」

泣き続けるアダム。

 キャロライン     「(アダムを抱きしめたまま)
                         アダム、私、あなたに恋をしたわ。でも愛してくれなくていいの。
                         私の心は元々傷ついていたの。でも、もう、かまわないわ。
                         あなたにみんなあげてしまうんだもの。」

アダムを抱いていた手をはなして、アダムの前に立つキャロライン。

 キャロライン     「だって、私たち、今、愛してる人が必要なのよ。でしょ。」

アダムにかけていたタオルを外し、手を引いて家の中にいざなうキャロライン。
キャロラインを見つめ、ゆっくりと立ち上がり、キャロラインのあとに続くアダム。

<暗転>「Nature Boy」(スローな女性ヴォーカル)


●シーン14 街角 ●

ステージのメインは暗いまま、上手端だけ明るくなるとそこにはビルAが寂しそうに立っている。
音楽は前のシーンから続いてそのまま「Nature Boy」が 流れている。

時刻は夜。ビルAは寝袋のような荷物とリュックを持って、溜息をついている。
そこにビルBがやってくる。

 ビルB      「よう、ビル!」
 ビルA         「よう。」
 ビルB         「何してんだ、そんなところで?
                かわいこちゃんとこにいったんじゃなかったのか?」
 ビルA         「昼間行った。」
 ビルB         「泊まるんじゃなかったのか?」
 ビルA     「追い出されたんだ。おまえは?」
 ビルB         「俺はこれから、かみさんと子ども達と、ささやかなイヤーエンドパーティーさ」
 ビルA         「そうか。」
 ビルB         「じゃあな、また来年な。」
 ビルA         「ああ」

上手そでに入って行くビルB、溜息をつくビルA。
ビルBが戻ってくる。

 ビルB         「俺んち、来るか?」
 ビルA         「(ものすごく嬉しそうに)行く行く!!」

走って上手そでに入って行くビルA。
「Nature Boy」が流れ続ける。

●シーン15 キャロラインの家のポーチ ●

同じく夜。キャロラインの家のポーチ。「Nature Boy」が 流れ続ける。
中からカウントダウンと「ハッピー、ニューイヤー!」というにぎやかな声が聞こえる。
その中にはアダムの声も聞こえる。キャロラインの家族もいるらしい。

玄関を飛び出して来たのはマイケル。

 マイケル     「ハッピーニューイヤー!!」

ドアの中からキャロラインの声だけ聞こえる。

 キャロライン 「マイケル、来年こそは、彼女呼ぼうね。」

その言葉にドアをすぐに締めるマイケル。

 マイケル  「(泣きながら)なんでふられたんだ・・・」

上手の方に走って行く。
上手はしから1/4くらいのところで止まるとそこにスポットが当たっていて、その場所だけ雪が降っている。

 マイケル  「雪だ・・。パパー、ママー、おねえちゃーん、雪が降って る〜〜。
                    (となりに彼女がいるかのように話しかける)綺麗だね・・・。
                    (むなしくなり)さむい・・・・」

「Nature Boy」が大きくなって暗転。


●シーン16−a ダイナー  ●

明るくなるとダイナーのホール側。BGM不明。
カウンターには二人のビル。マリーがレジの近くにいる。

 ビルA         「もう、1月も半ばだな。なあマリー、 今日、キャロラインとシンディは?」
 マリー         「二人とも早番よ。今日は私とロッティ」

がっかりする二人のビル。そこへ、シンディが着飾って登場。

 ビルA               「シンディ!」
 シンディ            「ハーイ!」
 ビルB               「やあ、お姫様。舞踏会にお出かけかい?」
 シンディ            「そのようなもんね。これからキャロラインとマウンテンに踊りに行くの。
                            でも、ちょっと問題があるのよ。キャロラインにはダブルデートだって言ってないの。
                            むしゃくしゃするから踊りに行こうってしか言ってないの」
 マリー             「まあ。お相手は?」
 シンディ          「ジューリオとその友達のロニーよ。」
 マリー             「大丈夫?キャロライン、怒るわよ」
 シンディ           「だから約束の30分前にここに呼んであるの。」
 マリー             「相手は?」
 シンディ        「ここに来るわ」
 ビルたち         「あらら・・・」

そこにキャロラインが入ってくる。

 マリー             「来たわよ」
 キャロライン     「はあい!」
 ビルたち         「やあ!」
 シンディ           「はあい」
 ビルA             「じゃあ、俺たち、そろそろ帰るよ」
 シンディ            「まあ、今日は早いのね」
 ビルA             「(嬉しそうに)こいつのうちに行かなくちゃならないんだ。」
 ビルB             「別に来なくてもいいよ」
 ビルA             「こいつんちの猫がすっかり俺になついちゃって。」

右のポケットからポケットからツナ缶を取り出して。

 ビルA         「ほら、約束したんだ。
                        (もう一つを左のポケットからとりだして)ツーな。」

みんな笑う。帰って行くビルたち。ビルBはシンディに向かって親指を立てる。シンディもそれに答える。

 シンディ     「キャロライン、ちょっとこっちに来て」

キャロラインをキッチンに引っ張って行く。舞台が少し回って、キッチンが正面になる。


●シーン16−b ダイナーのキッチン  ●

音楽は前のシーンと同じか違うか、あまり気にならない程度に流れている。
キャロラインは下手端側、シンディは流しを背に立って話す。

 シンディ     「ねえ、キャロライン。ジュリオは知ってるわよね。」
 キャロライン 「ええ」
 シンディ     「ジュリオの友達のロニーって知ってる?」
 キャロライン 「知らないわ?」
 シンディ   「ねえ、今日、ジュリオと友達のロニーと、ダブルデート ができるか聞こうと思って。」
 キャロライン 「無理だと思うわ」
 シンディ        「どうして?」

シンディは、キッチンの真ん中にある調理台の上にバッグを置き、そこにある椅子に座って化粧なおしを始める。
キャロラインは下手端の方に立っている。

 キャロライン  「だって・・・つきあってる人がいるの?」
 シンディ          「(キャロラインの方にふりかえって)
                            あなたが?つきあってる人がいるの?え〜、誰よ?」
 キャロライン    「え〜〜。じゃ、しょうがない・・・・・
                         アダムよ。」
 シンディ         「アダム??アダムって誰?」
 キャロライン     「ここで働いているアダムよ」
 シンディ         「(少し考えてから、かなり驚いて)え〜〜、あのアダム???
                            (立ち上がって、キャロラインを指差して)嘘つき!!
                            どうしてそんな冗談が言えるのよ!」

キャロラインがつきあっている相手がアダムときいて、信用しないシンディ。

 キャロライン 「話してみたら、彼とは気持ちが通じるの」

流しの方に歩いていくキャロライン。
シンディは椅子に座って化粧なおしをしながらキャロラインの話を聞いている。

 キャロライン   「 私一人じゃ気持ちは通じない、彼一人でも気持ちは通じない。
                          でも、私たち、二人だと気持ちが通じるの?」
 シンディ       「何それ?意味がわかんない。
                           彼とはどんな話をするの?彼の好きな物は?彼の両親とは会ったの?」
 キャロライン     「彼に両親はいないわ。孤児なの。」
 シンディ            「ほんとの孤児なんて初めて会ったわ」
 キャロライン   「彼はみんなが思ってるよりはずっと頭がいいわ。
                          本だってたくさん読んでるし。
                            彼ってとっても自然なの。まるで子どもみたい。彼って素敵 なの。
 シンディ          「アダムは変人よ!」
 キャロライン      「これは生き方よ!人生なの!!
                          私が夢見る人魚だったら事態は違っていたわ。 バカ王子を待っていたかも。
                          でもそうじゃない。私は自分の手で、大切な物をつかまえるの。」
 シンディ          「でもそれがアダム?自分を安売りしすぎよ」
 キャロライン      「(声をあらげて)あなたにはわからないこともあるのよ!!」

調理台の手前を通って、再び下手側にいくキャロライン。

 シンディ         「でもなんで?」
 キャロライン     「(ちょっと間があってから)先月、私、病欠したでしょ。」
 シンディ          「ええ」
 キャロライン     「休んだ前の日、帰り道に、公園で、二人の男にレイプされそうになったの」

思い出して怯えながらいうキャロライン。

 シンディ         「ええ!ほんとに??冗談でしょ!!」
 キャロライン     「ほんとよ」
 シンディ       「(心配そうに)大丈夫だったの?」
 キャロライン     「誰かがそれを止めたの。それがアダムだったのよ。彼は二人を病院行きにしたわ。
                           それから私をうちまで運んで、玄関のポーチに寝かせた。そのときに彼を見たの。
                             私を助けてくれたのはアダムだったのよ。」
 シンディ          「まあ。どうして言ってくれなかったの?」
 キャロライン     「わからない。誰にも言ってないの」
 シンディ          「こんど、こういうことがあったら、まずは私に言うのよ」
 キャロライン     「二度とあってほしくはないけどね。」

少し笑う二人。

 シンディ          「でも、まいったなあ。あなたはロニーと行くしかないの。
                          もうジューリオに言っちゃったのよ。
                          ロニーは素敵よ。ロニーのパパはホームセンターのオーナーなのよ。
                          4人で踊りに行くなんて素敵じゃない?たまにはぱーっといきましょうよ」
 キャロライン     「無理よ。私は、今日はパスするわ。」
 シンディ          「あなたはロニーを嫌いでいいわ。ロニーはあなたの硝子の靴じゃなかった。
                            だから二度と会わなくてもいいわ。
                            でも、お願い。今日は一緒に行って!!親友でしょ。」

キャロラインにだきつくシンディ。

ホールの方にはジューリオとロニーが入って来る。

 マリー             「(手に布巾をかけてキッチンにいる二人に)王子様お二人がお見えになりました」
 シンディ          「ありがとう。マリー、ビール4本お願いね」
 マリー             「かしこまりました」

ホールの方にいくシンディ。しかたなくキャロラインもついていく。
キッチンの冷蔵庫からビールを4本出すマリー。冷蔵庫のドアを足でしめる。

セットが回ってホールとキッチンの間くらいが正面になる。

●シーン16−c ダイナー ●

音楽は「T.S.O.P.」(ソウルトレインのテーマ)(The Three Degrees)が流れている。

 ジューリオ         「ハーイ、シンディ。ハーイ、キャロライン」
 キャロライン        「ハーイ」

4人はテーブルにつく。
奥がジューリオとシンディ、手前、カウンターを背にロニー、その隣り、一番客席に近いところにキャロライン。

 ロニー            「キャロライン、僕は知ってる?」
 キャロライン     「全然。」
 ロニー           「僕のパパはホームセンターのオーナーなんだ。もし、何か必要なものが・・・・」

アダムがいないかとキッチンを気にするキャロライン。
ロニーもそっちをむいて何事かと思って見てみる。キャロライン、キッチンを見るのをやめて座る。

 ロニー          「棚を作る材料とか、ペンキとか壁紙とか、必要なときは、僕か、シンディに言ってね」

キャロラインの肩にロニーが手をかけるが、それをそっとはらうキャロライン。

ビールが出て来て、乾杯するシンディたち。
気が気じゃないキャロライン、シンディをカウンターのほうに引っ張って行く。

 キャロライン 「やっぱりまずいわ、これは!アダムが見たらなんて言う か。」
 シンディ      「彼には、私がボーイフレンドを二人連れて来たって言えばいいじゃない?」
 キャロライン 「アダムになんて説明すればいいの?」
 シンディ   「私が友達をつれてきたでいいじゃない?」
 キャロライン 「アダムがなんて思うか?
                         アダムは・・・傷つきやすいのよ。」

キッチンの方にいくキャロライン。ガスが注文している品物の段ボールを持って入ってくる。

 キャロライン   「ガス!アダムを見なかった?」
 ガス           「さっき、そのへんにいたよ」

アダムを探して控え室に入って行くキャロライン。中にいないのですぐに出てくる。

 ジューリオ      「キャロライン、こっち、こっち!」

しかたなく、テーブルに戻るキャロライン。

 ロニー          「僕のパパはホームセンターのオーナーなんだ。」
 ジューリオ      「こいつ、また言ってる」

キッチンの奥からビンが入ったケースをもったアダムが入ってくる。髪型がきれいに整っている。
ホールにいるキャロラインが目に入る。

 ロニー          「そのホームセンターで一番売れてる物って何だと思う?」
 シンディたち    「なに?」
 ロニー          「車さ。(キャロラインの肩を抱いて)その車をキャロラインにプレゼントするつもりなんだ。」
 シンディたち    「まあ、すごい!」

その瞬間を見てしまったアダム。ショックを受け、ビンの箱を床において、キッチンに走る。
気づいて後を追うキャロライン。

 シンディ         「だいじょうぶ?」
 キャロライン    「なんとかする。」


●シーン16−d ダイナーのキッチン  ●

セットが回ってキッチンが正面になる。
一番奥の皿洗い機を叩くアダム。

 キャロライン    「アダム!」
 アダム             「(怒りをあらわにし)なんであの男と一緒にいるんだ??」
 キャロライン   「彼とは今日初めて会ったのよ」
 アダム          「あの男と出かけるのか?」
 キャロライン    「違うわ。彼とはなんでもないわ!!」
 アダム          「キスしたのか?」
 キャロライン 「何言ってるの?」
 アダム            「あいつとキスしたのか?」

キャロラインの方に近づくアダム。キャロラインが下手、アダムが上手になる。

 キャロライン 「してないわよ!彼とは、今日、初めて会ったって言って るでしょ。
                        嫉妬のせいで戦争を始めたバカと同じにならないでよ!!」

 アダム        「 ・・・あいつのことが、好きなんだろ?!」
 キャロライン 「アダム!あなたはもっと私のことを知るべきよ!
                       そんな事言うなら、何もしゃべらない頃のあなたのほうが好きだったわ!」

キャロラインの言葉にショックを受けて黙るアダム。

 キャロライン 「いいわ、アダム。この事は後で話しましょう。」

ホールに戻って行くキャロライン。
その場で嘆き、裏口から外に出て行くアダム。そこにあるゴミ箱を蹴飛ばしたり、段ボールを投げたり八つ当たりする。
その間、キャロラインはテーブルには戻ったが、他の3人の会話には加わらず、1人、あらぬ方向を向いている。

八つ当たりした後、座り込んで泣いているアダム。

そこに車の音がして、覆面をして鎖をもったパッツィが来てアダムを襲う。最初は逃げるアダム。
すぐに捕まり、下手端にひきずられる。後から同じく覆面をしたハワードも来て、ハワードがアダムを刺す。
二人はすぐに逃げる。
客席には背中をむけたままなんとか裏口のところまできて、ドアに手をかけ、客席側を向くとお腹にはナイフがささっており、エプロンは血だらけになってい る。自力でドアをあけて中に入るアダム。お腹をおさえてキッチンに座り込んでいると、ガスが控え室から出てアダムに気づく。

 ガス          「どうした、アダム?腹でも・・・・」

アダムの異常に気づいてアダム近寄るガス。キャロラインも気づく。
自分で腹にささったナイフを抜くアダム。
 
 キャロライン 「キャ〜〜、アダム〜〜」

アダムにかけよるキャロライン。その場で仰向けにひっくりかえるアダム。

 ガス          「救急車だ!」
 キャロライン 「アダム〜〜。」

うめいているアダム。電話をかけるマリー。異常に気づいてカウンター越しにキッチンをみているジューリオとロニー、そしてシンディ。

<暗転。音楽は不明。>


●シーン17 病院のロビー  ●

メインの部分は暗いまま、上手端に病院の待合室のような長椅子。そこにはシンディが1人、心配そうに待っている。
しばらくするとガスが上手そでから登場。

 シンディ        「(立ち上がって)アダムは?」
 ガス          「今、ドクターが来る」
 シンディ        「キャロラインは?」
 ガス          「ずっとアダムにつきそってる」

椅子に座る二人。

 シンディ  「(泣きながら)私が悪いのよ。私がキャロラインをダブル デートに誘わなければ・・」
 ガス            「(きっぱりと)悪いのはあの二人組だ!」
 シンディ     「私が、アダムを怒らせなければ・・」
 ガス            「いいか、シンディ。悪いのはあの二人組だ」
 シンディ  「でも・・・・」

泣いているシンディ。そこにドクターが登場。
立ち上がる二人。

 ドクター     「傷のほうは大丈夫です。心配ありません。」
 ガス          「そうですか。」
 ドクター     「我々が心配しているのは、気になるのは、彼の心臓の方です。」
 ガス          「心臓?」
 ドクター     「孤児院には彼の医療記録が残されていません。よくあるんです。養子の口がない子は特に。
                        我々のみたところ、彼はかなり小さい頃、おそらく2〜3歳の頃、心臓の外科的手術をしています。
                        今の彼の心臓は、25歳の男性の心臓ではありません。」
 シンディ     「(立ち上がってドクターの側に行き)それはつまり、人間の心臓ではないと?」
 ドクター     「おっしゃる意味がわかりませんが?」
 シンディ     「なんでもありません。失礼しました。」

椅子に座るシンディ。

 ドクター     「我々は一つのことについて意見が一致しました。
                        心臓移植です。提供者が表れるまで安静にしていることです。」

 ガス          「心臓移植?」
 ドクター     「はい。」
 ガス          「あの、どれくらい待つんでしょか?」
 ドクター     「それはわかりません。
                さっき、彼に移植の話をしたら、酷く興奮して。
                        『これは僕の心臓だ。誰にも持っていかせない』って。 私と看護士4人でやっと彼をおさえつけたんです。
                        発作がおきなくてほんとによかった。彼が今、生きているのが不思議なくらいです。
                        それはいい兆候でもあるんです。それくらい生命力が強ければ、まだ生きられる。
                        でも、いずれは移植が必要でしょう。」
 ガス          「移植となると・・・・相談しなければならない人もいるんです。」
 ドクター   「はい、わかりました。とにかく、彼はよくなります よ。」

<暗転 「Nature Boy」(ピアノソロ Massimo Farao`)>


●シーン18 キャロラインの家のポーチ  ●

明るくなるとキャロラインの家のポーチ。朝早い時間らしく、朝陽がさして明るい。
ショールを羽織ったキャロラインが電話機を持って外に出てくる。

 キャロライン 「もしもし、シンディ?朝早くごめんなさいね。お願いが あるの。
                       病院まで車で送ってほしいの。誰もいないのよ。車もないし。
                       アダムに会いたい・・・」

下手の方をみるキャロライン。何かに気づく。

 キャロライン 「もしもし、シンディ。大丈夫になったわ。気にしない で。また後で電話するわ。」

電話を切るキャロライン。アダムがよろよろと歩いてくる。
後ろに回した右手には小さな花束を持っているが、キャロラインからは見えない。
歩いてくるアダムを見つめるキャロライン。
下手端の方で立ち止まり、キャロラインを見つめて左手を広げるアダム。
そこに飛び込んで抱きつくキャロライン。
左手だけでキャロラインを抱きしめるアダム。

 アダム         「(泣きながら)ごめん、いろいろ心配かけて」
 
キャロラインも泣いている。

 キャロライン   「病院は、あなたを出してくれたの?」

うつむくアダム。

 キャロライン   「まあ、抜け出して来たのね?」

ほんの少し笑うアダム。キャロラインの言う通り、抜け出して来たらしい。

 キャロライン 「おなかはどう?朝ご飯でも作りましょうか?」

アダムの手を引いて家につれていこうとする。刺されたおなかをおさえるアダム。

 キャロライン 「そうだったわね。おなかをさされたんですもんね。縫っ てあるし。」

アダムのさされたお腹に触るキャロライン。ずっと持っていた花をキャロラインに渡すアダム。

 キャロライン 「まあ、綺麗。ありがとう。
        (泣きながら)私がわたすつもりだったのに・・・・」

微笑んでいるアダム。

 キャロライン 「さあ、ここに座って。」

玄関前の階段に並んで座る二人。

 キャロライン 「病院の先生はなんだって?」
 アダム            「胃にナイフがささったままはよくない、って」
 キャロライン 「そんな冗談を聞いてるんじゃないわ。殺されるところ だったのよ。」

涙ぐむキャロライン。

 キャロライン 「ハワードとパッツィは警察が逮捕したわ。あなたを刺し た。
                       あなたは警察に出頭しなければならないみたい。
                       でも、大丈夫。
                       私も一緒に行く。何もかも全部話すわ。」

キャロラインの決意をきいて、大きく頷くアダム。笑顔になる。

 キャロライン    「それより、アダム、聞いたでしょ。心臓の事よ。」
 アダム          「(それまでの笑顔が急にひきつった顔になり)
                         僕は嫌だ!これは僕の心臓だ。誰にも持っていかせない!!」

立ち上がってやや下手の方にいってそこに座りこむ。

 キャロライン 「アダム!それはおとぎ話よ。いいかげん、おとぎ話をや めない?
                         このままでは死んでしまうわ。


 アダム        「今の心臓でいい!!みんなわかってないんだ!!」
 キャロライン 「(アダムにすがって)アダム、あなたに死んでほしくないのよ。愛しているのよ!!」

アダムから離れた階段に座って泣き出すキャロライン。
キャロラインの言葉にびっくりしてキャロラインをみるアダム。

 アダム        「知らなかった・・・・。
                       君が、そんなふうに僕の事を考えてくれていたなんて」
 キャロライン 「考えてるわよ。何言ってるのよ。」

泣いているキャロライン。

 アダム      「僕は、君に話さなければならないことがあるんだ。」

キャロラインから少し離れた階段に座って泣き出すアダム。

 アダム    「君には安らかな眠りがある。でも僕は眠れない。」

「Nature Boy」(ベースの音で始まる)がかなり小 さな音で流れ出す。

 アダム      「僕は、毎日、同じ夢を見る。
                     ジャングル、広がった木の枝、うっそうとしたブドウの木。
                       そして雨、いつも雨。
                     僕は胸が苦しくなる。
                       絶望。生きる望みもなく、絶望。
                       全部、この心臓のせいなんだ。
                      ・・・・・・でも、僕は、この心臓を失ったら
                      (キャロラインの方を向いて)君を愛せない!君を失う!」
 キャロライン「(アダムに近寄りながら)
                     アダム、あなたは心臓じゃなくて、心で、魂で
                     私の事を愛してくれてるわ」
 アダム      「(キャロラインを見て)それなら、なぜ、
                     (胸に手を当てて)ここがこんなにもひどく痛むんだ?
                       君がいないと?」

アダムを抱きしめるキャロライン。そのキャロラインを泣きながら抱きしめるアダム。
キャロラインを抱きしめる手に、何度も何度も力が入る。
         
<暗転 「Nature Boy」(きれいな女性ヴォーカル)


●シーン19 ダイナー  ●

明るくなるとダイナーのホール。マリーが一人でカウンターに座っている。コインを飛ばして遊んでいる。
キッチンの奥やホールをキョロキョロ伺うと、ジュークボックスのところに行き、自分で曲をいれる。
ジュークボックスからは「Touch Me in the Morning」(ダイアナ・ロス)が流れる。
曲に合わせて踊るマリー。カウンターにあったポットを両手で持ち、ポットに話しかけながら踊る。

 マリー        「ガス、素敵な朝ね。
               (ガスになって)マリー、私が生まれたクレタ島の女神みたいだ・・・・」

入り口からビルBが入ってきて、一人で踊っているマリーに驚いてそれを見ているが、突然、くしゃみをする。
ビルBにびっくりして、踊りをやめ、踊っていなかったようなフリをするマリー。

 ビルB        「(くしゃみをしながら)気温が零下なんて信じられないよ!」

カウンターに座るビルB。マリー、カウンターでコーヒーを入れて、ビルBに出す。

 ビルB        「昨日なんて、女房と二人で、一晩中、お互いにドライヤーであっためあってたんだ。」

くしゃみをするビルB。
   
 マリー        「風邪?」

ビルBにナプキンをわたす。

 マリー            「あら、今日はもう一人のビルは?」
 ビルB            「知らないのか?先週、あいつがかわいがってた馬が死んだんだ。」
 マリー            「馬?」
 ビルB            「ああ、あいつ、競走馬のオーナーだったんだ。その馬が死んだから、あいつ、ひどく落ち込んでて。」
 マリー            「知らなかったわ。」
 ビルB            「よく知らないけど、あいつにはいいことなんか全然なかったんだ。
                   1万5千ドルはすってるんじゃないかな。
                   あいつがいうには、その馬は扁平足かなんかだったらしい。」

ビルAが入って来て、ホールのテーブルに座る。落ち込んでいる様子。
キッチンの奥からシンディが出て来て、ホールにいるビルAのところに来る。

 シンディ        「ハーイ、ビル。おうまちゃんは元気?」

言葉につまり、泣き出して走り出て行くビルA。

 シンディ        「え〜?何?私、なんか悪い事言った?」

舞台が回って、暗くなりながら、大きなくしゃみをするビルBが馬が死んだ事をシンディに言い、シンディも驚く。

<暗転 「Touch Me in the Morning」が 大きくなる>
       

●シーン20 アダムの部屋  ●
  
アダムの部屋。立ってネクタイをしているアダム。胸に手をあてて少し苦しそうにしている。
少しそのままでいて、ジャケットを羽織り、ネクタイを整える。その時の表情はおだやかな笑顔。
テーブルの上には、緑の紙で包まれ、赤いリボンがかかった箱がおいてある。

 キャロライン 「(ドアを開けて入って来ながら)ハロー!お誕生日さー ん!!」

振り返って笑顔で迎えるアダム。
キャロラインはスカート姿でお洒落をしている。手にはピンクの小さな紙袋を持っている。

 キャロライン 「なんか少し元気がないみたい。」

微笑むアダム。

 アダム    「(紙袋からカードを出してアダムにわたしながら)さ あ、カードをあけて」

カードを開けて、中を読んで、キャロラインに微笑むアダム。

 キャロライン 「(紙袋をアダムにわたしながら)さ、これも。」

袋の中から白いマフラーを出すアダム。キャロラインの手編みらしい。
キャロラインに向かって微笑み、すぐにマフラーをしてみるアダム。
マフラーはかなり長く、首に一巻きして、後ろで結び、端を後ろにたらしている。

 アダム      「(マフラーを整えながら)どこに行くつもり?」
 キャロライン 「(部屋の奥にいって、マフラーをしたアダムを見なが ら)それは言えないわ。サプライズよ。」

微笑みあう二人。テーブルの上のリボンがかかった箱に気づくキャロライン。

 キャロライン 「これは?」
 アダム       「きみにだよ。キャロライン。」
 キャロライン 「え?私に!あなたのお誕生日に、私にプレゼントをくれ るの??」

頷くアダム。

 キャロライン 「まあ、アダムったら。中身は?」
 アダム        「それは言えない。サプライズだよ。後で一緒にあけよう」

微笑むアダム。幸せそうにアダムの方にいくキャロライン。

 キャロライン 「私、落ちたの。」
 アダム      「(キャロラインの足下にかがみながら)え?怪我した?」
 キャロライン 「話はまだ終わってないわ。」
 アダム      「(椅子に座りながらにっこりして)もう・・」
 キャロライン 「(アダムの首に抱きつきながら)私、落ちたの。あなた との恋にたーっぷり落ちたの。」

抱きついているキャロラインの腕に手をかけ、キャロラインの顔を見上げて微笑むアダム。
ソファの肘のところに座り、椅子に座っているアダムにむかうキャロライン。

 キャロライン 「昨日話した事、覚えてる。
                        セントビンセント病院、移植待ちリスト。ねえ、考えてくれた?」
 アダム      「もちろん。
                        でも、その事は、また明日、話し合おう。」

確認に満ちた微笑みをうかべてキャロラインに言うアダム。
「また明日」と言われて不安げだったキャロラインが笑顔になる。

 キャロライン  「さあ、行きましょう!!」
 アダム             「うん」

手をつないで笑顔で出かけようとする二人。何かに気づいたアダム。

 アダム      「あ、ちょっと待って」

ちょっとキョロキョロしてから、ソファの上の赤い手袋をみつけたアダム。その手袋を手にはめる。
その間にキャロラインは、ベッドの足下にかかっていたアダムのコートを持つ。

 キャロライン 「さあ、すごいわよ〜。」

手を繋いで出て行く二人。アダムが電気を消すと暗転。

<暗転 明るい曲がかかるが、残念ながら曲目は不明>


●シーン21 アイスホッケー会場  ●

前のシーンからの同じ音楽がかかったまま、上手端だけ明るくなりそこに二人が登場。
アダムは自分の手で目を塞ぎ、キャロラインが手をひいている。
かなりの人ごみの音が聞こえている。

 キャロライン 「さて、ここはどこでしょう?」
 アダム            「駅?」
 キャロライン 「違うわ。」
 アダム            「市場?」
 キャロライン 「違うわ。あれよ、あれ!!」

興奮気味にしゃべるキャロライン。

 キャロライン 「じゃあ、いいわ。目隠しをとって」

メインのステージにはレンガの壁がおりていて、その前にはベンチ。
アダムが自分の手を目からはなして、目をあけると、そこにはアイスホッケーの試合の様子が映し出される。
音も、音楽から、アイスホッケー場の喧噪に変わる。
アダムとキャロラインが見るのは客席全体。客席がホッケー会場に見立てられている。
そこがアイスホッケーの試合会場であることを理解して、驚きと戸惑いと、そして少し興奮して嬉しそうな表情を見せるアダム。

 アダム    「アイスホッケー?」
 キャロライン 「そうよ。いつか一緒に行こうって約束したでしょう。」

アダムの腕をとるキャロラインを見て微笑むアダム。

 キャロライン 「さあ、あっちに座りましょう」

舞台真ん中に置かれているベンチに方にアダムをひっぱっていくキャロライン。
キャロラインにひっぱられながらも、アイスホッケー場(つまり客席全体)をみわたし嬉しそうなアダム。
ベンチの前に立ったまま、嬉しそうに試合を見ているアダム。
その間、コートを脱いでベンチにおくキャロライン。

 キャロライン 「(アダムの側で)さあ、コートを脱いで」

コートを脱ぎながらも嬉しそうに試合を見続けるアダム。
ベンチに二人で座ると、キャロラインが飲み物を渡す。
それを受け取るアダム。
キャロラインが試合の様子を興奮気味に説明する。楽しそうに見ているアダム。

 アダム      「ねえ、キャロライン。またいつか来ようね。」
 キャロライン 「ええ」
 アダム      「(キャロラインに顔を少し近づけて)いつ?」
 キャロライン 「いつかね」
 アダム      「うん」

立ち上がって、下手の方に移動して応援するキャロライン。一緒についていくアダム。
1点入れられたらしく、がっかりするキャロライン。

 キャロライン 「(弱々しく)ゴーゴー、レンジャーズ・・・」

こんどは応援しながら上手の方に移動していくキャロライン。ついていくアダム。
レンジャーズが得点を入れ、アダムに抱きいて喜ぶキャロライン。
抱き合って喜んだ後も、自然に左手をキャロラインの背中に回しているアダム。

真ん中に戻って盛り上がるキャロライン。
目を見はって楽しそうに試合を見ているアダム。

 キャロライン 「(勢いよく)ゴーゴー、レンジャーズ!!」
 アダム      「(そっと手を前に出して、小さな声で)レンジャーズ・・・」

顔を見合わせて笑う二人。
ハーフタイム。

 アダム      「もし、あの時、オフサイドを取られていなければ・・・」
 キャロライン 「(残念そうに)でも、あのエルボーはダメよ」
 アダム      「もし、あの時、あいつがペナルティボックスに入れられいたときのあのプレー」
 キャロライン 「(かなり悔しそうに)悔しい!1点とられたわ」
 アダム      「パワープレーだ」

ベンチに座るキャロライン。

 アダム      「いい試合だね。」
 キャロライン 「ええ、いい試合ね」
 アダム      「どっちのチームも最高だね。」
 キャロライン 「ええ」
 アダム      「ねえ、キャロライン。またいつか来ようね。」
 キャロライン 「ええ」
 アダム    「(ベンチに座りながら、キャロラインにかなり顔を近づ けて)いつ?」
 キャロライン 「(笑いながら)アダムったら。今日、その質問、4回目 よ。」

アダム、ずっと嬉しそうに微笑んでいる。

 キャロライン 「あなたがこんなに夢中になっているのは初めて見たわ。
                 ほんとに楽しんでいるのね。またいつか一緒に来ようね」
頷くアダム。

 キャロライン 「(ホットドック?をアダムに出しながら)これ、食べ る?」

首を横に振るアダム。幸せそうな表情。
手をあげて大きなあくびをするアダム。

 アダム      「眠い・・・。僕の方がハーフタイムになっちゃったよ。」

笑いながらキャロラインを見るアダム。

 キャロライン 「試合が始まるまで少し眠るといいわ。起こしてあげるか ら」
 アダム      「うん」

自分の左肩に頭を傾けて寝るアダム。
アダムの顔を幸せそうに見るキャロライン。ホットドックを食べたり、飲み物を飲んだりしている。

試合開始の合図。

 キャロライン 「アダム!試合が始まるわよ。」

動かないアダム。
アダムの耳を触ったり、嬉しそうにイタズラをするキャロライン。動かないアダム。
アダムの膝をゆらしたり、立ち上がって叫ぶキャロライン。

 キャロライン 「アダム!!いい、帰るわよ!!」

まったく動かないアダム。再びアダムの隣りに座って呼びかけるが動かないアダム。
体を揺すると、キャロラインの側にぐったりとなるアダム。
キャロラインの表情が変わり、手をアダムの顔に近づけ呼吸を確認する。
さらに、右手をアダムの心臓に当ててみる。
アダムの心臓は止まっている。
状況が信じられずしばらく固まっているキャロライン。

 キャロライン 「(大きな声で叫ぶ)アダム〜〜〜!!」

<暗転>


●シーン22 葬列  ●

「Nature Boy」(ピアノで始まる男性ヴォーカル) が流れる中、
黒い傘をさしたアダムの葬列が、ステージを下手から上手にゆっくりと進む。

先頭はガス、続いてマリー、二人のビル、ジューリオとロニー、マイケルが歩いて行く。
ガスが、上手端に近づいたところで葬列が止まる。
そして、最後に少し離れて泣きながらシンディが歩いてくる。
シンディがおいつくと、葬列は進んで行く。

「Nature Boy」が流れ続ける。


●シーン23 アダムの部屋  ●

明るくなるとアダムの部屋。
最初のシーンの続き。ソファにはマザーカミーラが、椅子にはキャロラインが座っている。

 マザーカミーラ「とってもいいお話だったわ。アダムは幸せ者ね。」
 キャロライン 「そう思います?」
 マザーカミーラ「ええ。
                        ・・・・アダムはあなたの前で泣いたのですね?」
 キャロライン 「ええ、何度も。」
 マザーカミーラ「あの子がいつもベッドで泣いてばかりいました。
                         シスターたちが心配するので私は言いました。『子どもはベッドで泣くものよ』って。
                         ある時、私はそれまでと同じように、あの子にかまうのを禁じました。
                         あの子をお気に入りだったシスターヘレンはとても悲しい顔をしました。
                         周囲の大人がかまいすぎると、子どもは心がもろくなって却って病気が悪くなる場合もあるんです。
                     (キャロラインの方を見て)キャロライン、あなたは強い看護婦さんでもあったようね。」
 キャロライン 「・・・・・」

キャロラインが手に持っている赤い手袋を見つけたマザーカミーラ。

 マザーカミーラ    「その手袋は?」
 キャロライン     「アダムのです。
                         君に出会う前は一番大切な人にもらって、って言ってました。
                         ちょっと焼きもちをやいて『恋人?』って聞いたら、そんなんじゃない。一番尊敬している人だって・・・」

その「尊敬している人」が目の前のマザーカミーラだと気づいたキャロライン。

 キャロライン     「すいません、マザーカミーラ、私・・・」
 マザーカミーラ    「いいのよ。キャロライン。
                           あなたにその使ってもらって、とっても嬉しいわ。
                           アダムもきっと同じ気持ちよ。」

立ち上がるキャロライン。

   キャロライン       「 アダムは、天使 だったんです。」
 マザーカミーラ    「ええ、あの子は孤児院にいるときからずっと天使でした。
                     神に召されて本当の天使になりました。」
 キャロライン        「お友達のシンディに言われたんです。『あなたは最後までやりとげたことがない』って。
                       でも、生まれて初めて、あきらめずに最後までやりとげました。
                           
アダムを愛する事を。」

泣いているキャロライン。
衣の下で手を組んでお祈りをするマザーカミーラ。

 マザーカミーラ    「それでは、わたくしはそろそろおいとまいたします」
 キャロライン     「私はもうしばらくここにいます」

立ち上がったマザーカミーラはキャロラインと抱き合う。

 マザーカミーラ    「お元気で。」
 キャロライン     「マザーカミーラも。」

送り出すキャロライン。ドアのところで会釈するマザーカミーラ。
椅子のところに立って少し泣きじゃくるが、「泣いてちゃいけない」という決意で顔を上げる。
そしてプレゼントをあけると、それはアダムのレコード。
レコードを見て再び泣き出すキャロライン。泣きながらアダムの好きなレコードをかける。

チマーラの「郷愁」が流れる。手で顔を覆って泣くキャロライ ン。
舞台上手端が明るくなり、真っ白な衣装を着たアダムが上手そでから出てくる。
首には誕生日にキャロラインにもらったマフラーをしているが、後ろでしばってたらしてある部分が天使の羽根のようにみえる。
泣いているキャロラインを見ているアダム。
キャロラインが、レコードの箱に入っていた写真に気づき、写真を手にとり微笑む。
その写真は、おそらく、髪を切ったときと同じ衣装。
微笑んだキャロラインを見て微笑むアダム。階段状になっているところに客席の方を向いて座る。
キャロラインが写真を裏返すとそこにはアダムからのメッセージ。
アダムの声が流れる。

 アダム      「愛するキャロラインへ。
                     夢がかなったのでレコードはいらなくなりました。
                     君にあげます。
                     話はまだ終わってないよ。
                     僕のハートは君を忘れないよ。
                     ずっと、永遠に」

窓からは光がさしている。アダムの気配を感じてアダムの方を見るキャロライン。
そして、窓からの光を見上げるキャロライン。

しばらく「郷愁」が流れ、それにかぶって「Nature Boy」(Kurt Elling)が流れ、だんだん暗くなる。

<暗転>「Nature Boy」(Kurt Elling)が 流れ続ける。


●カーテンコール
「Nature Boy」(Kurt Elling)が流れ 続ける。そのまま途中からアップテンポに変わる

1回目
 セットはダイナー。
 ハワード、ロニー、マイク、マリーが出てくる。
 二人のビルが出てくる。
 ガスが下手奥出てくる。
 マザーカミーラが上手奥出て来て、聖職者らしく手を組んでお辞儀をする。
 シンディがセット下手奥から出てくる。この頃、「Nature boy」(Kurt Elling)はアップテンポの部分になる。
 キャロラインが上手奥から出てくる。
 最後に、白い衣装のアダムが下手奥から出てくる。
 全員で並んで、相葉くんは小さな声で「ありがとうございました」と言ってお辞儀。
 アダム、キャロライン、シンディ以外がまず左右にはける。
 3人でもう1回お辞儀をして、シンディは下手に、アダムとキャロラインは上手にはける。

2回目
 上手から相葉くんが一人で出てくる。お辞儀をして、手を広げると左右から全員出てくる。
 みんなでお辞儀をしている間に、セットが回り、アダムの部屋になる。
 相葉くん以外は、アダムの部屋の左右にはけていく。
 相葉くんだけ、アダムの部屋のドアからはけていく。

3回目
 アダムの部屋のドアから相葉くんがだけ出て来て、大きな声で「ありがとうございました」。
 お辞儀をして、冷蔵庫をあけて、アイスクリームのパックを持ってドアからはける。

4回目
 もう一度、アダムの部屋のドアから相葉くんが出てくる。
 その時、アイスクリームのパックを持ってくる事もあった。
 最後はそのアイスクリームを冷蔵庫に戻してからはける。

音楽はずっと「Nature Boy」(Kurt Elling) 。


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